今日、北陸で大きな地震がありました。
恐れが蘇るとか、何かしなくてはとか、そういう具体的なものではないのですが、どうしても、被災直後のことが思い出され、あういう体験は誰にもしてほしくないと思うのです。
事実、私の人間に対する見方は、震災後に変わりました。
そのことについては、いつか整理ができたら書きたいと思います。
さて、今回はその東日本大震災にかかわる本を読みました。
「『風の電話』とグリーフケア」という本です。
これは、ある種のモニュメントとそれに関わるいくつかの論考からなる本です。
事実を基にしているのですが、ルポルタージュというわけではありません。
内容を紹介しながら、感想を述べていきます。
まずはグリーフですが、これは悲しみとか愁いとかを表します。
つまりグリーフケアとは、悲しみをケアするということです。
それでどうやって悲しみをケアするのかというと「風の電話」を使うのです。
「風の電話」とは何か。
簡単にいうと、どこにもつながっていない公衆電話ボックスです。
白い電話ボックスに昔懐かしい黒電話が置いてあります。
その電話で、震災で亡くなった人と電話する。
そういう癒やしの道具なわけです。
また、ボックスにはノートが置いてあります。
これは、風の電話利用者が思いを自由に書くためのものです。
後から利用した人がそれを読んで共感する。
そういうノートです。
こういうノートって、昔見たことがあります。
若い頃、貧乏旅行していました。
使う宿はユースホステルです。
いくつかのユースホステルに宿帳というものがあり、そこに宿泊した方が思い思いのことを書いていました。
宿帳といっても宿泊台帳とは違います。
みんな貧乏旅行をしているという妙な一体感というか連帯感があるため、ほのぼのと共感できる内容でした。
おそらく風の電話のノートも似た雰囲気を持っていると思います。
被災者、被災で親しい方を亡くした者、そういう方々が共感できる内容になっていることでしょう。
これは一つの癒やしの場であると思います。
震災で親しい方を亡くしたのは、突然の断絶だったはずです。
その瞬間を境に、日常が変わってしまった。
そういうものであったと思うのです。
究極のハードランディングです。
風の電話は、これをソフトランディングに変えていく。
そういった役割を果たしていることでしょう。
いたこのいない恐山というか、そういうものになっているのではないでしょうか。
実もふたもない話をすれば、電話線は切れています。
どこかにつながるわけではありません。
しかし、電話をしたい人がいて、その電話器を使って話してみる人がいる。
まさにグリーフケアとなっているのです。
これは前回のブログでふれた治療空間ですね。
こういった空間が、傷ついた人には必要なのです。
「風の電話」はたいへんおもしろい取組だと思いました。
しかし、一民間の施設です。
こういう施設を作り管理をする人がいなくなったら、電話ボックスもなくなることでしょう。
悲しいことです。
そういう意味からも、この電話を設置し管理している佐々木さんには感謝しかありません。
いつか行ってみたいと思いました。