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【書評】「平成幸福論ノート」

1 概要

同じ著者の「黒山もこもこ、抜けたら荒野」の続編です。

筆名はちがいますが、同一人物とのことです。

本書の初版は2011年3月です。

東日本大震災の直後に出版されていることを考えると、震災前の平成の社会について考察したものでしょう。

よくも悪くも大震災は幸福ということについての国民の考えを変えたと思っています。

そういう意味で「平時の」幸福論ととらえることができると思います。

前書よりも学術的な記述になっていることも特徴といえるでしょう。

2 結婚と孤独死

生涯未婚率が上がり続けています。

若者に金銭的余裕がないから、直截にいえば貧乏だから結婚できないのだ。

そういう意見がよく聞かれます。

そうではないでしょう。

著者にいうように、モテるモテないが原因だと思います。

もっと貧乏な時代でも多くの人は結婚していましたから。

モテという要素がもっとも大きいはずです。

世話好きのおじさん・おばさんに代わり結婚相談所という営利企業が現れました。

ここでは、「条件」によって相手をしぼりこみます。

筆者は「条件」はかけ算だといいます。

性格×年収×容姿…。

一つでも0だと、答えは0になる。

そういうのです。

結婚しなくても幸福に過ごすことはできる。

というのも一面の真理ではありますが、人とのつながりが幸福感を増すことも事実です。

一方で、引取手のない死者も増えてきたのだとか。

孤独死の増加するということは、生きている間に人とのつながりが薄い人が増えたということでしょう。

これもまた、幸福度が高まっていないことを表しているのです。

3 低成長率と世代間格差

バブル崩壊以降、日本は低成長率の世界に入りました。

これはどういうことかというと、今後世の中はよくならないということです。

年金制度などの社会保障制度の問題も、今後経済が順調に成長していくのであれば大きな問題にはなりません。

さして成長もしないということが、この問題を深刻化させているのです。

新自由主義が支持された背景もこのことがあると思います。

全体が成長しないのだから、自由にさせて豊かになれるものはなる。

勝ち組をつくる。

低成長だからこそ、このような思想が支持を得るのです。

そして、虚妄の成果主義

成果主義の正体が賃金抑制であることは、みんな知っていると思います。

成果主義をとっていた企業においても、年配層の年収の増加が若年層よりも大きかった。

そういう数値が出ているそうです。

つまり、微調整をしただけで、大枠は変えなかった。

賃金抑制の理由として、成果が出ていないからという文言が使われた。

こういうことなのだろうと思います。

低成長率時代を生きる若者は、消費を避けほどほどの暮らしを求めるのだそうです。

若者の○○離れ。

これを嘆くのではなく、これも幸福の追求している一つの姿なのかもしれない。

こう考えることもありなのではないでしょうか。

4 総評

もう令和ですが、バブル以降としての平成の幸福のあり方を追究した本書は、とても興味深かったです。

結論が、つながりの再編というのもおもしろい。

大震災以降、絆という言葉が普通に使われるようになりました。

人と人とのつながりの大切さを表した言葉です。

大震災は不幸な形でですが、日本人のつながろうとする気持ちの強さを見せつけました。

そして、人とのつながりの中で、自らの不幸を癒やしていったのも事実です。

そういう点から考えるに、筆者のいう「つながりの再編」ということは幸福を求める上で有効なのだろうと考えました。

わたしたちは、与えられた社会条件の中でしか生きられません。

この低成長で人口縮小、少子高齢化の社会という条件でどのように幸福を追い求めればよいのか。

「つながりの再編」の具体化がどうあればよいのかを考えなければならないのだと思いました。