人間の感情はいろいろあります。
それなのに、感情をコントロールする本といえば怒りばかりです。
現代社会では、怒りはマイナスの影響を与えるものと認識されているのでしょう。
喜びやうれしさをコントロールするための本とか聞いたことがありません。
今回読んだ本は「なぜ私は怒れないのだろう」です。
抑える方ではありません。
発揮する方です。
切り口が斬新だと思いました。
内容を紹介しながら感想を述べていきます。
著者は、アンガーマネジメントの仕事をしている方です。
その方の問題意識として、怒れなくなった人が増えているということがあります。
これまでとは真逆の問題意識です。
今までは、どうしたら怒りを抑え込めるかが大きな課題でした。
この変化の背景には、二つの要因が挙げられています。
一つは「褒めて育てる」風潮の浸透です。
もう一つは、SNSの普及です。
褒めて育てるが浸透したため怒られたことのない社会人が増えました。
そしてパワハラ認定も広がっています。
少し叱っただけでも仕事を辞めてしまう。
辞めると叱った人の責任問題になったりします。
結果、怒りを仕舞い込む人が増えたというのです。
SNSで「いいね」をもらうことで承認欲求が満たされるそうです。
それで「いいね」をもらえるようなことを書き込みます。
それで怒りを押し込める人が増えていると筆者は述べます。
正直にいうと、この部分はそうなのかなとも思いました。
何に「いいね」をするかはその人の感性によるので、倫理的にどうかと思うことにも「いいね」をする人はいますから。
さて、怒りを封じることで人は損をすると筆者は述べます。
一つ我慢したことで、さらに我慢することを押しつけられる。
そういうことが連鎖していくといいます。
とはいっても、怒ってばかりでは社会生活が不安定になります。
筆者は、よりよい怒りをする人は、リクエスト上手であるといいます。
リクエスト。
つまり、他人への要求です。
公憤や義憤のように怒りの対象は人とは限りませんが、日常生活で多いのはやまり人を相手にする場合です。
そこでは、相手が自分の思ったとおりにしてくれないことが原因となっていることが多いでしょう。
ですから、怒りをリクエストとして表すといいとのことでした。
いいリクエストとは、「いつまでに」「何を」「どの程度」「どうしてほしい」かが明確になっているとのことです。
とても具体的です。
こうすることで、自分の思いが相手にはっきりと伝わるというわけです。
部下の指導などで有効な方法ですね。
この方法を有効としていることから、怒りに対する筆者の考えが分かります。
感情を爆発させるような怒りをよしとしていないことです。
やはり、感情のおもむくまま行動するのは、社会生活上問題があるということなのでしょう。
怒りをリクエストに昇華することが重要なわけです。
よく考えてみれば、これだけ社会制度が整備されている現代社会では、怒りを伴って意思を表さなくとも、自分の意思を実現できます。
返って怒りを使うことで、実現から遠のくこともおおいでしょう。
そういう意味では「怒れない」ではなく「自分の意思を表すことができない」というのが実像に近いのかもしれません。
巧みな意思を表し方が必要というわけです。
本書の後半に、「怒ることに自信が持てるようになる10の習慣」が載っています。
一つ一つを検討しませんが、これは怒るためというより、健康で穏やかな心理状態を保つための10の習慣のように読めるものです。
健全な精神であれば、他人への要求も素直に出せる。
そういうことに行き着くのかなあと感じました。
以前、怒っていいという趣旨の本「あなたはもっと怒っていい」を紹介しました。
それとはずいぶん趣が異なっていました。
こちらの方がより現実的な話だと思います。
筆者は、怒りをため込むのが最もよくないと考えているに違いありません。
それが精神に変調を及ぼすからです。
社会生活で不都合を起こさず、自分の感情にも無理をさせないためにどうしたらよいか。
それを追究した本だと思います。
怒りを扱い方に悩んでいる人に一読を勧めます。
とてもいい本ですよ。