1 概要
辻堂ゆめさんの「君といた日の続き」の書評です。
![君といた日の続き [ 辻堂 ゆめ ] 君といた日の続き [ 辻堂 ゆめ ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/7914/9784103547914_1_4.jpg?_ex=128x128)
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主人公は離婚したばかりの中年男。
ある日、10歳ぐらいの少女と出会います。
少女は昭和末期からのタイムトラベラー。
奇妙な同居生活が始まります。
というのがこの物語の設定です。
少女の正体を探ることが話の軸になりますが、ミステリーものといった感じはありません。
そもそもタイムトラベラーというファンタジー設定なので、論理的に正体を探っても仕方がありません。
もう一つの話の軸は、中年男の癒やしです。
この主人公は離婚したてなのですが、その原因が病気で娘を亡くしたこと。
娘が亡くなったことで、生きる気力をなくした夫婦が離婚したのです。
この心の傷を癒やす過程が、少女の正体を探る過程とからんで一つの物語となっていました。
2 少女の正体
少女の正体は、中年男の妻でした。
中年男は、小学生の時に出会った別の少女だと推理していました。
その少女は、誘拐殺人事件に巻き込まれて殺されてしまっていたのです。
その無念さがタイムトラベルということを引き起こしたのではないかと考えていたのですが、ちがっていました。
中年男の妻は、殺されてしまった少女の親友。
その形見の靴を探しているうちにタイムトラベルしてしまったのです。
そして、未来で中年男の協力の下、形見の靴を見つけます。
それで過去に帰ってしまうのでした。
事件後、中年男は元妻と電話で話します。
そして、よりを戻し未来に向かって歩き始める。
こういうストーリーでした。
3 半径2mの話
本書は図書司書に推薦されていたので読みました。
半径2mの小説だなあ、というのが率直な感想です。
昭和末期と令和の比較。
タイムトラベル。
連続少女誘拐殺人事件。
コロナパンデミック。
このようなガジェットが組み込まれていますが、要は娘の喪失した男が立ち直る話です。
これが妻が夫を救うために願いを持ち、それを懸命に叶えようと奮闘し、ついに叶えることができた、とかそういう話じゃないんですね。
タイムトラベルはあくまで、こういうことがあったっていう話です。
誰かが男を助けるために起こしたことではないのです。
妻は少女の頃に中年となった夫と会ったことを覚えていました。
なので、結婚離婚する際もどういうことになるか知っていたわけです。
それって、男を幸せにするために必要な手続きだったの?
と特に離婚に関しては思うのですが、このお話ではそういうことになっています。
特に妻は自分たちの子どもが10歳で亡くなることを知っていたのだとか。
すごい精神の持ち主だなあ。
最後に中年男は実は休職中で、明日にでも自殺しそうな心境だったことが明かされます。
それを救う意味もあって10歳の妻が現れたのではないかと中年男は考えます。
こんな大がかりなことをしなくとも、夫婦で悲しみを乗り越えることができたのではないか。
とも考えるのですが、こういう大がかりが必要なくらい、男の心情が末期だったのかもしれません。
それにしても、夫婦二人の間のお話です。
半径2mといいましたが、本当に小さな世界の話でした。
4 総評
読後感はそれほど悪くなかったのですが、すごくいいという感じでもありません。
指輪物語のようなハイファンタジーの場合、設定そのものを楽しむということもできますが、通常こういうファンタジーはそういう設定の中で登場人物がどのように生きたかということがおもしろさの中心になります。
つまり、登場人物を通して人間の魅力を引き出すための設定というわけです。
そういう点から考えると、本書の設定は人間の魅力を引き出すまでに至っていません。
亡くなった娘の描写が軽めで喪失感を強く感じるまでに至らりませんし、夫婦のきずなの強さもそれほどではないのです。
何より最後の最後に中年男が自殺を考えていたという説明があるのですが、中年男の生活からそれを感じ取ることは難しかったです。
一つ一つが甘いというか、そんな感じでした。
軽い謎解き、センチメンタリズム、そういうものが好きな人は読んでみてもいいのではないでしょうか。
さくさくと読めますし、ハッピーエンドなので読後感はさわやかです。