1 本書の概要
どうやって世界が経済成長をしてきたのかを探った本です。
専門書でかつ分厚かったので読み応えがありました。
経済はどういう条件がそろったときに発展するのか。
そういうことを歴史的に考察した本です。
日常から離れた学問的な内容でしたが、現代の停滞する日本を考えるヒントになりました。
常識を問われ直される内容でおもしろかったです。
2 植民地からの収奪だけでは説明がつかない
ヨーロッパの諸国が経済成長をしたのは、多くの植民地を持ち、その植民地から収奪したからだ。
こういう仮説について、本書は明確に反論します。
スペインやポルトガルは新大陸から多くの資源を収奪した。
しかし、富は一時的な反映をもたらしただけで、永続的な経済成長はできなかった。
確かにその通りです。
スペインは覇権は、続きませんでした。
無敵艦隊が敗北した。
ハプスブルク家が零落した。
まあ、いろいろ原因いえるでしょう。
しかし、富は持っていたのです。
その富を増やすことはできませんでした。
3 勤労貯蓄意識が重要!?
マックス・ウェーバーの説ですね。
カルバン派が勤労と蓄財に励む人々を生み出した。
こういう人々が経済成長を後押しした。
こういう話ですね。
スペインはごりごりのカトリック派。
全世界に修道士を派遣し不況に勤めました。
何せ日本にまで来てますからね。
とはいえ、プロテスタントで最も速く貿易立国となったオランダの繁栄が続かなかったことから、これも決定的とはいえず。
他の要素を探ることになります。
4 法の支配
民主的な公平な制度が繁栄を約束した。
とこういう説です。
中世において先進地域だったイスラムや中国で経済成長が続かなかったのは、宗教的な制度にとらわれたり、法律を超越する専制君主がいたからだ。
イギリスは、国王さえも議会が退位させている。
とこういう理屈です。
これはかなり説得力があります。
いや、ありました。
最近の中国の経済発展を見るまでは。
独裁専制でも経済発展するんですね。
ただ、今後も中国が発展を続ければという話ではありますが。
とはいえ、専制君主(に類した)制度のもとで経済発展した国が少ないことも事実です。
5 産業革命
産業革命こそが大切なのだ。
つまり生産の効率化ですね。
重要なことはまちがいないでしょう。
経済発展している国は、工業国が多いですから。
しかし、産業の工業化は、最初は大変でしょうけれども、後から模倣できます。
そして、世界の国で工業化できない国はもはや存在しない。
にも関わらず、経済発展しない国もある。
こういう疑問は残ります。
蒸気機関をいつまでの秘密にしておけるわけもない。
こういうことです。
まあ、工業化に耐えうる人材を育成することも重要。
ということで初等中等教育が普及していないといけない。
こういうことはあると思います。
中国や日本は17世紀ごろから識字率は高かったようですけれども。
産業革命時のイギリスがそれほど高かったのか。
少年労働の問題もあっただろう。
そういう反論もあるでしょう。
6 総評
つまりは、単一の原因で経済発展が起きるわけではない。
様々な要素がからんでおきる。
こうはいえると思います。
翻って、日本はどうなんでしょう。
30年間成長していないとのこと。
まあ、戦後の経済成長は、冷戦下のアメリカの大盤振る舞いのような気はします。
日本製品どんどん買ってくれましたから。
それも限界ということで為替をいじり、それで一時的に富が増えたものの、経済成長の要因は失った。
とこんなところでしょうか。
日本自体も人口減に突き進んで、国内市場も失わせているようですけどね。
本書に書いてありますが、現代の日本でも年収300万ぐらいの人でも産業革命下の富豪よりも快適な暮らしをしています。
なので、世界は徐々に豊かになっていっている。
そう説明されています。
それを読むと安心します。
まあ総論はそうでも、自分という各論が豊かであるかどうかはまた別の話になるのでしょうけれどね。