1 日銀は物価の番人
日銀の総裁が黒田さんから植田さんに替わるそうです。
黒田さんといえば、異次元の金融緩和。
通貨供給量を増やしたことで有名です。
日本中の金融関係者が注目しています。
さて、本書ですが2012年初版発行された日銀の金融政策に関する本です。
一般に中央銀行は物価の番人と呼ばれます。
しかし、デフレを何年も解決できない日銀はその名にふさわしくない。
いわばデフレの番人だ。
こういうタイトルになっています。
要するに日銀の政策批判です。
本書発行の時の総裁は白川さん。
黒田さんの前任者です。
白川さんの政策をどのように批判しているのか、見ていきましょう。
2 日銀のいうデフレ原因
筆者は、日銀のデフレについての説明を日銀理論とまとめています。
これら日銀理論はすべてデフレの原因が日銀にはないという理論だといいます。
つまり、金融政策ではない何かによってデフレが起きている。
こういう理論です。
その上で筆者は、これらの日銀理論はすべてまちがっていると断言しました。
不良債権があるからデフレが起きた→なくなってもデフレだ。
生産年齢人口が減っているのがデフレの原因だ→生産年齢人口が減ってもインフレになった国もある。
とまあこんな具合で、日本以外の諸外国、特に先進国が2%のインフレで推移しているのに日本だけがデフレなのは、日銀の金融政策がまちがっているからだ。
とこんな主張なのです。
3 デフレから転換するための金融政策
それでは、筆者が支持する金融政策はどのようなものか。
簡単にいえば、インフレターゲット論です。
2%程度のインフレを目指した金融政策。
そのために行うことは、量的緩和です。
あれ?
そうなんです。
本書は黒田総裁登場前の出版なんですが、これは黒田総裁の金融政策なんですね。
つまり黒田的金融政策待望論。
通貨供給量を増やし、市場にお金を行き渡らせ、物価に転嫁させていく。
こういう政策をやってくれ。
こういう主張でした。
それで、10年後の現在どうなったかというと。
ご存じの通りです。
3 総評
わたしが本書を現時点で読みたくなった理由は簡単です。
つまり、筆者のように黒田政策を支持していた方は10年前には大勢いました。
今もいます。
それで、現在どうなっているかというとデフレを脱却していません。
確かに燃料費その他は高騰しています。
それは外的要因であって、経済成長によるものでないことはご存じの通り。
10年やっても、デフレは脱却できなかったのです。
ということは、金融政策だけでデフレは脱却できないということですね。
黒田政策は、基本的に行き詰まっています。
政策金利はもうマイナスまでいってしまいました。
下方硬直性ここに極まれり。
あまり打つ手がなくなってきています。
そして財政収支の悪化により、現政権は増税に振り切っています。
増税が正解とはとても思えない経済状況ですけどね。
大丈夫なんでしょうか?
本書の主張の通りやって、日銀はデフレの番人から脱却しようとしたのですが、できませんでした。
というのが現在の状況だと思います。
財政均衡派とMMR派の議論が今も続いていますが、もっと経済の専門家にこういう黒田待望論の頃の議論を総括してほしいと思いました。
そうでもしないと、政治のパワーゲームに飲み込まれて、妥当な金融政策の議論ができなくなってしまうと感じたからです。
デフレというよりは経済成長ですね。
なぜ経済は成長できないのか?
過去の議論を検討して、もう一度ほんとうに問題になっていることを洗い出してほしいと思います。
温故知新。