この本は、人間の知能について本執筆時点での最新の研究を紹介したものです。
本の趣意は「石器から宇宙船まで生み出したシステムはどうなっているか」というものでしょう。
結論からいえば、この問題意識は解決されていません。
研究途上であるというのが本の結論といえます。
さて、ではどこまで分かったのでしょう。
筆者は知能を二種類に分けてとらえます。
どんな知能的活動にも関わる一般因子であるgと個別の活動にかかわるsです。
そして、どのような課題の知能テストであってもgは関わるし、gが高い者はどのようなテストでも好成績をおさめるのだそうです。
そういう仮定はいいのですが、問題は、ではgとは何か。
具体的には何を指すのか。
そういうことだと思います。
これは明確になっていません。
筆者は「知能」や「賢さ」は日常的な概念であって、科学的なものではない。
それは定義の問題であり、実際をとらえていないといいます。
では、gを科学的に定義してくれといいたくなりますが、そこは何も述べません。
結局は、個別の知能から具体的に調べていかなければならないのであって、一般的ななにかを仮定しても、そしてこれまでの知能の定義を不確かで内実と対応していないといっても、何も進歩していないのです。
ちょっとがっかりしました。
その他医療的な知識から知能が脳のどの部位で発揮されているかを述べています。
が、それはあまり知能のあり方について本質的な知見は与えてくれません。
AIとの比較から、人間の知能には類推の機能が優れていると述べているところも問題提起だけで終わっています。
AIが「本質的には考えていない」ということは、AI関係者の多くから述べられています。
AIは処理しているだけなのです。
「理性は何でも合理化する」に至っては、心理学の錯視等の研究からずっと述べられていることで、おそらくは脳の情報処理負担の軽減のためである、ということにほとんどの心理学者は合意するでしょう。
つまり、この本は知性について概括的に述べてはいるものの、本の執筆時点では本質的なことは何もまだ分かっていないと紹介しているのに過ぎないのです。
私の心理学的な興味・関心は、情動・感情・ストレスを中心としていますので、知性に関してはどうでもいいのですが、最新の研究成果の紹介にしてももう少し何かできなかったのかと思いました。
この分野の研究は、まだまだ先が長いように思います。