アドラー心理学の実践ガイドを見つけました。
しかも,教育の分野です。
「幸せになる勇気」で教育におけるアドラー心理学のあり方を提示していましたが,今ひとつ納得しかねるものでした。
今回は創作ではなく,現役の教員で公認心理師の方が書いたものです。
より実践的なものと期待できます。
本訴の構成は,冒頭の理論編というか考え方を述べた部分と本の大部分を占める実践篇となっています。
実践篇は,○○な場合とか○○な子がいたら,というような具体的場面が取り上げられています。
そこで,ありがちな対応とアドラー心理学を用いた対応が対比的に述べられています。
このような構成ですので,実践ガイドというよりはハウツーものといった感じを受けました。
ただし,さすが現役の教員だけあって,具体の場面がよく描かれています。
そういうことあるだろうなあという場面ばかりでした。
さて,アドラー心理学の応用の仕方ですが,生半可な理解で教条的に当てはめてもうまくいかないと述べられていました。
ほめもしなければけなしもしない。
主体性を大切にする。
共同体意識を重視する。
そういうアドラー心理学の基本的な点は踏襲しながらも,現実の学校に合わせているのがすごいと思います。
アドラーはほめることを否定し,勇気づけを推奨します。
よい行動を促すという点では似たような感じを受けますが,人格を尊重するという点で大きな違いがあるといいます。
筆者は,上司や校長をほめられますか,と問い掛けます。
まあ,おべんちゃらなら言えるでしょうが,子供をほめるようにほめることはできないでしょう。
しかし,ならば勇気づけができるかというと,これはこれで難しそうですね。
それはさておき,勇気づけの大事なところは相手の人格を尊重することでしょう。
尊重と受け取られれば,相手がほめられたと感じられてもいいんじゃないかなあと思いますした。
本書の勇気づけの例は,相手を尊重した言葉がけの例としても優れています。
同僚への声掛けの参考にしたいと思いました。
さて,学校という所では,秩序への反発や反抗,あるいは単に勉強したくないや我慢できないなどの理由で,指導に従わない子供がでるものです。
「幸せになる勇気」では,こういうことから指導できなくなりアドラー心理学を捨てた若者が現れました。
本書では,この指導に従わない子供をどうとらえているのでしょう。
このような子供は次の段階で徐々にあるべき姿から遠ざかるといいます。
1 過度の注目・関心を得ようとする
正当でない目立ち方をして気を引こうとするわけです。
2 権力闘争に勝とうとする。
教師と言い争い,教師を打ち負かそうとします。
3 復讐する
不当に扱っているものへの攻撃をします。
何も教師だけではありません。
第三者に向かい,いじめになる場合もあります。
4 無気力無能力であることを誇示する。
学校なんて意味ないという態度へ移行します。
筆者はそれぞれの段階で,子供と対立してはいけないといいます。
子供の心理に共感し,子供にどうしたいかを考えさせ,行動に移る勇気づけをするべきだといいます。
叱っていうことをきかせても,心のどこかに反抗心が残る。
それではいけないというのです。
この主張は,大筋で賛意を示したいと思います。
その子供にも支援の手が必要だと思いますので。
ただ,一人二人ならいいでしょうが,いわゆる学級崩壊みたいになりけっこうな数の子供を相手にしなければならなくなったらたいへんでしょうね。
およそ問題対応というものはすべてそうだと思いますが,問題の数が増えるとそれだけ対応する人も増やさなくてはなりません。
担任教師が一人で対応するには限界があるでしょう。
まあ,そんなに一時期にたくさん現れるというものでもないのかもしれませんけど。
さて,本書はとても具体的ですし,教条主義的でもないので,アドラー心理学の実践化を理解する上でとてもよいと思います。
教育以外の分野でも,こういう本が出てくるといいと思います。
アドラー心理学への理解が深まる本でした。