詩集のように言葉が少ない本を読みました。
タイトルは「悲しみを忘れないで」,著者は臨床心理士の諸富祥彦さんです。
これは,東日本大震災の被災者に向けた本のようです。
ですが,大きな悲しい出来事を経験した人すべてに役立ちそうな気がしました。
被災者以外の人にもぜひ読んでほしい本です。
次のようなところが印象に残りました。
まず印象に残った一つ目は,励まさないで,という主張です。
この主張は,よく心理士の方が話すものです。
励ますことによって,かえって相手を追い込んでしまう。
そう心理士さんたちは話します。
ものすごく悲しい人がほしいのは,励ましではないのです。
悲しみのまっただ中にいる人がほしいのは,分かってくれること,共感してくれることなのだそうです。
誰もわかってくれない。
追い込まれた人は,往々にしてそう話します。
共感してくれること,みんなとつながっていること,みんなの一員であること。
そういうことを望んでいるのです。
諸富さんは,これを悲しみを分かち合うといっています。
こういうことが,悲しんでいる人にとって,本当にほしいことなんですね。
印象に残った二つ目は,悲しみの中にいるときにどうするかという方法です。
これには二つの方法を示しています。
一つ目は,ご存じマインドフルネスです。
深呼吸をしながら,今ここに意識を集中させます。
そして落ち着いてきたら,自分の感情を見つめます。
怒りや悲しみに名前を付けてもよいかもしれません。
そうすることで,自分をとらえなおすことができます。
二つ目は,気持ちを表現することです。
天気の絵を描いてもよいかもしれません。
体を動かして表現してもよいかもしれません,
時には,駆け出したり,大きな声を出したりしてもよいでしょう。
子供なら遊びで表現しておよいかもしれません。
津波遊びでさえよいと諸富さんは話します。
それでも表現することで,心は立ち直っていくのだそうです。
印象に残った三つ目は,悲しみを忘れないで,という主張です。
いつかそんなこともあったね。
そう風化させてはいけないといいます。
悲しみをいつまでも覚えている。
そして,悲しみが教えて人生で大事なことを覚えている。
それが大切だといいます。
自分の生きている意味を考える。
自分の使命を考える。
人生からの呼びかけ,未来からの呼びかけに応える。
そのように諸富さんは,話します。
正直にいうと,この辺りはよく分かりませんでした。
それは,自分が人生の意味をなくすくらい悲しんだことがないからかもしれません。
人生に意義を見失って自暴自棄になった人に呼びかける,最後の呼びかけ方なのかもしれない。
そう思いました。
この本は,あっという間に読み終えることができます。
しかし,悲しみのまっただ中にあったら,何度も読み返してみたいと思いました。
この本自体に力はありませんが,この本に優しさを感じることはできると思います。
本の向こうにいる誰かが自分を分かってくれている。
そういう気持ちになるだろうと,感じたからです。