1 池上彰さんと気仙沼市
東日本大震災以降、気仙沼市立図書館に蔵書を寄贈しているそうで、その縁で実施となったそうです。
事前に申し込まなければなりませんが、無料の講演です。
ぜひに、と聴きに出かけました。
2 リベラルアーツ
話の中心はリベラルアーツの重要性でした。
リベラルアーツとは、簡単にいえば教養科目です。
専門教育に進む前に学ぶ基礎教養といえばよいでしょうか。
大学で学ぶ幅広い基礎教養ともいえます。
これを学ぶことが創造性につながるというものでした。
リベラルアーツはギリシャ時代からの伝統といわれますが、現代において実際に重要視しているのはアメリカの大学です。
アメリカでは、まずは大学でリベラルアーツを学び、その後専門課程を各名門大学で学ぶというケースが多いのです。
私の母校でも、入学式でそんな話をされました。
いわく、本学ではリベラルアーツを大切にしていると。
ま、実際がどうだったかは語らないでおきましょう。
とにかく、幅広い知識と見識をもつことが大切というわけです。
3 教養の重要性
話のまくらは、日本の凋落でした。
アメリカでラーメン・ギョウザを食べたら5,000円を超えたそうです。
物価高が理由なのですが、円安の影響も大きい。
日本が安くなった。
今では、東南アジア諸国と物価が変わらない。
そこから、どうしてこうなったのかという問題提起です。
アメリカには日本には現れないGAFAMのような企業がある。
このような企業の創出にリベラルアーツが関係していると、池上さんは話します。
アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスを例に挙げていました。
アマゾンは通販ですが、既存の通販とは違っていました。
通販には、安心感が足りません。
ほんとうに自分がほしかった品物が届くか不安が残ります。
そのことを知っていたジェフは、本の通販から始めました。
本なら品質が保証されているからです。
本を買った消費者は安心感を持ち、他の商品も買い始めます。
こういう人間心理を理解した経営戦略を取ったから成功したのではないか。
そう池上さんは語るのです。
そして、人間心理を理解していたのはリベラルアーツを修めていたからだと。
3年で古くなる最先端の知識を教える一流大学はない。
最先端を作り出すことができる人間を育てることが大切なのだと池上さんは語りました。
4 ウクライナ紛争の背景
あれだけ広い領土をもつロシアには、他国の侵略への恐れがある。
ナポレオンにもドイツにも攻められた。
プーチンの兄はドイツのレニングラード包囲戦でチフスにより亡くなっている。
そういう対外的な認識があるといいます。
ソ連崩壊後、東ヨーロッパはこぞってEUやNATOに加盟しました。
東ヨーロッパはソ連にとって緩衝地帯でした。
本意ではありませんが、東ヨーロッパがNATOに入るのは仕方ありません。
しかし、旧ソ連諸国はロシアの一部も同然です。
そこがNATOに入るのは許しがたい。
プーチンにはそういう認識があるのだろうといいます。
また、コロナ禍でプーチンは親しく議論する相手や機会を失っていたのだろう。
そうも推察していました。
日本からは理解しがたいウクライナ侵攻もこういう歴史的知識を持っていれば理解できる。
そう教養の大切さを池上さんは強調しました。
5 RNA研究が生きたこと
もう一つの例は、コロナワクチンです。
ワクチンの開発には10年かかるのが常識です。
それなのに新型コロナワクチンは数年でできた。
それは、DNA研究が主流だった遺伝子研究の中で、あえてRNAを研究していた学者がいたからだといいます。
そして、その研究をワクチン開発に活かせると思いついた研修者がいたからだといいます。
こうして、実用一辺倒ではなく幅広い興味関心を持つこと。
このことを重要性を池上さんは話しました。
6 総評
慎重な池上さんは明確に述べませんでしたが、現在の日本の教育に疑義を持っているのでしょう。
一人一台情報機器を与えたからといって、IT革命を起こす人材が現れるのか。
6年習って話せないからといって、英語を母国語とする教師を雇えばいいのか。
こんな実用一辺倒の教育でいいのだろうか。
そういう疑問だと思うのです。
もっと余裕を持って、一見むだと思えることに夢中となっている人間を育てた方が、結果的に大きな成果を生むのではないか。
こういう主張だと思いました。
今回は、中高生を迎えての講演でもあったので、教育の面が強く出ていたと思います。
私は、情報機器の配布はただの情報消費者を生むだけだと思っているので、教養重視に強く共感しました。
実用というのは、習いたくなったら習えばいいのであった、そういう選択ができる人間を育てることが大切だと思います。
解説の裏にある池上さんの考えにふれることができた。
そう思える講演会でした。
休日つぶして行ってよかったなあ。