1 本書の概要
臨床心理学者ロジャーズの生涯とその心理療法を簡便に解説した本です。
クライエント中心療法は、いくつかあるカウンセリングの方法の中で有力な一派です。
ロジャーズさんはその創始者。
クライエント中心療法について、ロジャーズさんの生涯と共に解説しよう。
そういう意図の本です。
ちなみに、その他のカウンセリングで有力な方法は、精神分析学とか認知行動療法とかです。
有名ですもの。
それと同じくらい広がっているのがクライエント中心療法なのです。
本書は入門書、クライエント中心療法のエッセンスがわかるように解説しています。
まえがきには、厚くしようと思ったけど、この薄さが本書のよさみたいなことが書かれていて、ボリューム的にもちょうどよい感じですね。
ただ入門書といっても、一般向けというよりは初学者向けで、そうですね、青版時代の岩波新書をイメージするといいかもしれません。
クライエント中心療法の変遷も、ロジャーズさんの生涯と対応させて記述されているのでわかりやすい。
とはいえ、クライエント中心療法そのものの概念がわかりにくい部分があります。
療法なので、実例と対応させないと具体的に理解できないところはありました。
その場合は本書を起点に他書へ広げてほしいということでしょう。
あくまで最初にとりつく島というのが、本書の役割のようです。
2 クライエント中心とは
クライエント中心が始められたということは、それ以前の療法がクライエント中心じゃなかったということです。
例えば精神分析学。
これはセラピスト中心といっても過言じゃありません。
精神分析学では、クライエントが自由連想で語った内容をセラピストが解釈します。
フロイト派の治療は、すんごく単純化すると自我によって抑圧されたトラウマを自覚させることが中心です。
しかも○○は△△の象徴である、というようにクライエントが自覚していないことを暴き出します。
「転移」などといいますが、クライエントがセラピストに敵意をもつこともあります。
敵意の中には、セラピストの解釈が原因となったこともあるでしょうね。
この治療法では、クライエントが解釈する余地はありません。
解釈はセラピストが行います。
とまあ、ちょっと極端に書きましたが、原因を見いだすのもセラピスト、治療法を示すのもセラピストというようにセラピスト中心だったわけです。
ロジャーズはそうではありませんでした。
クライエントには自分で課題を解決する力が備わっている。
それを引き出すのがセラピスト。
そういう考えでロジャーズは心理療法に臨んだのです。
3 自己と経験の不一致
クライエントは心理的な問題を抱えてセラピストのもとを訪れます。
心理的な問題をどうとらえるか。
ここは心理療法の種類によってことなります。
精神分析学は心的外傷(トラウマ)を抱えているととらえます。
トラウマは抑圧されて意識にのぼってこない。
それを明らかにすることが心理療法の第一歩になります。
認知行動療法は、まちがった行動を学習した結果と考えます。
なので、まちがえた行動を学習し直すことに注力します。
心理というものは外から見えないので、構成概念を想定して考えるので、同じ問題に対するとらえ方が異なってくるのですね。
認知行動療法は、行動のみをとらえるという考えになっていますけど。
それはさておき、クライエント中心療法です。
ロジャーズは心理的な問題をどのようにとらえているか。
自己と経験が一致していないことが問題である。
そうとらえています。
機械工になることを両親に望まれた男。
機械の操作・組立に失敗するたびに両親にダメといわれ続け、自分もそうだと思い込む。
機械修理がうまくいくと偶然や機械がよかったと考える。
自己の認識と経験がずれている。
このようなことから心理的課題を抱えてしまっている。
自己の経験と自己認識を一致させれば心理的問題は解決に向かう。
このように問題をとらえているのです。
この問題をどのように解決しようとしているか。
ロジャーズはクライエント中心に解決を図ります。
セラピストが指示を出したり、学習をし直させたりしません。
クライエント自身の自己指示による変化を待つ。
そういう手法をとります。
クライエントの能力を信じた療法なわけです。
4 総評
★★★★☆
4つですね。
確かにロジャーズの考えに入門するにはよい本です。
ロジャーズの用語解説もわかりやすいと思います。
しかし、実例というか治療の具体例がほしいですね。
経験と認識の不一致の状態をもっと知りたいと思いました。
先の機械工の話は本書に載っていたものです。
しかし、これだと経験どれかわかりにくいですよね。
失敗した経験なのか成功した経験なのか、どれを指すのかはっきりとしない。
なんとなくはわかるんですけど、確信がもてない。
本書を手軽に読める薄さにしているために起きていることとは思います。
ロジャーズを理解するためには、本書1冊で完結しないところに残念さを覚えました。