1 本作の概要
物理学助教授が探偵役をするミステリーです。
助教授という肩書に時代を感じますが、内容は古くなくおもしろい正統派でした。
短編集なのでサクサク読み進められます。
コンセプトとしては、科学的に隠蔽された犯罪を物理学者が解くというスタイルです。
2 科学的事故
短編の1つにナトリウムによる爆発がありました。
これには思い当たることがあります。
もちろん、自分が起こした事案ではありません。
化学の講義だったかもしれません。
ある工学部生が、薬物の処理に困って大学近くの河原にナトリウムを埋めたのだそうです。
当然、河川の水に反応して大爆発。
警察の調書に「ナトリウムと水の急激な化学反応を誘発してしまい…」と書いたのだとか。
多分、昭和の牧歌的な部分で許されていた事故なんでしょう。
これが殺人に利用したというアイデアなんですが、まあ現実的には無理でしょうね。
特に、海水浴を楽しんでいる人を殺すってことには。
ということを知っていたので、他の科学的なアイデアにも実現可能じゃないものもあるのだろうなあ、と思いました。
小説を楽しむっていうのは、そういうものではありますけど。
3 動機のリアリティ
推理小説のおもしろさには、いろいろな側面があります。
本格ものというのは、謎のおもしろさ、解決の見事さを楽しむというのがあります。
いわゆる謎解きです。
推理小説にかかわらず、多くの小説が謎で読者の読書欲を引きだそうとしているところからみると、謎解きというのは大きな魅力といえます。
しかし、謎解きということばかりに注力すると、非現実的な設定になったり、人間が都合よく動いたりするようになりがちです。
つまり、人間味がなくなると。
パズルでも解いてろ、というのは言い過ぎですが、そういう極北にはそういう批判があるわけです。
本作は短篇集ですし、ガリレオシリーズの定型パターンを確立することからも、科学的謎解きが中心になっています。
それは仕方がないことなんですが、そのため犯人の動機が典型的というか、とりあえずあればいいっていう感じでした。
つまり、謎に感心するけれども、小説として感動するかというとそうでもない。
こういう感じになりました。
長編「容疑者xの献身」などになると、ガリレオシリーズでも読み応えがあったし、犯人の人生観にも共感できる部分があったので、このフォーマットの欠点というわけではないと思います。
あくまで、短篇集だからということでしょう。
4 総評
科学的に事件を解決するという湯川学という探偵の設定はおもしろいとおもいました。
ホームズほど非人間的でもありませんし、なかなか人生の機微にふれるところもいいです。
この小説は、アイデア勝負のところもあるので量産は難しいと思いますが、新作がでたらチェックしたくなる小説です。
東野さんにはがんばって量産してほしいと思いました。