1 本作の概要
ガリレオシリーズの9作目です。
探偵役の湯川准教授が渡米して6年、ようやく日本に戻ってきました。
勤め先は夏祭りのコスプレパレードで菊野市。
そこで係長となった草薙警部に力を貸すことになります。
解決すべきは、黙秘権の権化のような容疑者が起こしたであろう奇妙な殺人事件。
と思っていたらその容疑者が殺されてしまいます。
2つの事件がからみあって真相は藪の中。
これを教授となった湯川先生が解き明かしていきます。
真相が二転三転する複雑な事件でした。
2 すごく凝った構成
本作の敵役は、徹底した黙秘権使いです。
この人、十数年前の殺人事件の犯人です。
でも、証拠がなく起訴されませんでした。
徹底的に黙秘をすれば逃げ切れる。
そういう人物です。
草薙さんが駆け出しの頃、逃してしまった人物でもあります。
その人物が、数年前に失踪しようやく遺体が発見された事件の容疑者として浮かびあがりました。
今度も黙秘をするに違いない。
徹底的な証拠あつめが始まります。
という冒頭を読んで、容疑者も気味が悪いしなんだか陰惨なお話だなあと感じていたのですが、一転。
この容疑者が死体で発見されるのです。
あれれ。
どうやら湯川教授が解決すべきは、数年前の事件でも十数年前の事件でもなく、この容疑者殺人の事件なのでした。
すごく凝った構成になっています。
3 窒息という現象
黙秘権使いの容疑者の死因は窒息でした。
しかし首をしめられる等の外傷はなし。
なので殺人かどうかもわかりません。
睡眠薬を服用していたことはわかりましたが、ごく微量。
何かされたら起きるくらいです。
どうしたものか。
行き詰まりです。
そこで目についたのがフロンガス。
お祭りのパレードで風船がたくさん使われていました。
フロンガスで酸欠にすれば窒息させられるのではないか。
というわけで用途不明のフロンガスを探します。
これで解決と思いきや、みつかったボンベはごく少量。
とても部屋をガスで満たす量はありません。
なかなか解決しない事件です。
しかし酸欠で殺人というのは、確かでした。
実際に使われたガスは、もっと身近なものでした。
4 総評
湯川教授なんですが、今までも冷徹な科学者でありながら人情味のあるところを見せてきていましたけれど、今回は一層その感じが強く出ていました。
被害者家族の経営する定食屋の常連になっていました。
そして、他の常連ともなごやかに会話をしています。
元々は草薙さんが取り損ねた容疑者を再逮捕する手伝いとして始めたようなんですが、ずるずると定食屋に肩入れしていく感じです。
このあたりが新鮮で、興味深かったですね。
さて、容疑者件被害者ですが、この人2件目は濡れ衣っぽい感じで、他人に犯罪を脅迫していたようなんです。
本人が鬼籍なので不明なんですが、最終的に手を下したか下してないかがわかりません。
状況証拠としては下してそうなんですけど、生きていたとしてもまた黙秘するでしょうから証明は難しくなるでしょうね。
というわけで、推理としては謎はすべて解けているんですが、黙秘権を大々的に取り上げていたので、読後、ちょっと考えてしまいました。
さて、ガリレオシリーズの登場人物も順当に年齢を重ねてきたので、当初の雰囲気より落ち着いた感じを受けるようになってきました。
本作は謎解きものとしては構成の妙もあっておもしろいのですが、そろそれガリレオシリーズでなくともいいんじゃないかと感じています。
まだシリーズは続いているんですが、「サザエ時空」にいない人物たちをどう決着付けるのでしょう。
シリーズの行く末に思いをはせる読後となりました。
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