1 本作の概要
この「禁断の魔術」という本は、実は2つあります。
単行本と文庫本です。
普通、単行本と文庫本は収録されている作品が同じです。
しかし本作は単行本と文庫本は異なる内容となっています。
文庫本は、単行本に入っている短編の4作目「猛射つ」を長編に直したものです。
今回わたしが読んだのは単行本。
「猛射つ」については、次回文庫本を読んだとき書きたいと思うので、他の作品で印象に残ったことを今回は書きます。
2 透視能力
第1話「透視す」は、題名そのまま透視能力が題材でした。
水商売の女性が客の気を引くためにある『手品」をしていました。
黒い袋に名刺を入れます。
その名刺の中身を見て取るのです。
黒い袋は決して透けていません。
つまりは透視をしているのです。
客の気を引くおもしろい「手品」でした。
この女性が殺されてしまいました。
はたして犯人は?
という展開です。
このお話には2つの謎があります。
殺人犯は誰かと透視をどうやってしていたのかです。
推理小説なので、犯人捜しが大事なような感じがしますが、本作に限ってはそうではありません。
透視のネタバレの方が中心なのです。
ということは、この女性殺されなくともこの小説成立したんじゃないかとも思うのです。
読み進めているうちに、殺された女性が別の意味で不憫になってきました。
肝心の透視のネタですが、フィルム時代に一眼レフカメラをいじっていた人なら想像がつくと思います。
春先によく撮られるあのフィルムの写真ですよ。
レンズに赤い印がついていましたね。
あれです。
3 変化球と流体力学
2作目も、犯人捜しと謎が分離しています。
犯人は物取りだったので、すぐ見つかったのです。
じゃあ話は終わり、なんですが死んだ婦人が持っていたプレゼントの謎が残ったのです。
置き時計ですが、誰になんのために贈ろうとしたのか。
この謎です。
夫がいる婦人で、夫に向けたものではないことから浮気が疑われました。
まあ、結論をいうと夫のためを思って別の人に贈ろうとしたのでした。
この謎も、謎といえば謎なんですが、あまり科学的ではなくガリレオらしい謎ではありませんでした。
本作でガリレオらしかったのは、変化球の調査をするところです。
どの向きでどのくらい回転すれば、どのような変化をするのか。
野球の変化球を科学的に調べていました。
子供の頃、変化球って必殺技みたいだったから、すごく興味を持って調べたことがあります。
結局は、流体力学はすごく微妙で少しのちがいで大きな相違をもたらすから、子供にはよくわかりませんでした。
正直にいうとマグナス力もわたしにはわかるようでわからない力なんですが、改めて誰かが変化球を調べているとうれしくなってきます。
まあ、本作にとってはこの謎も枝葉なんですけどね。
お話は推理小説というよりは人情話になっています。
4 総評
不思議な事例を科学的に解き明かすガリレオシリーズですが、今回は謎よりも人間模様というか、人情話系が多かったように思います。
以前からそういう傾向はあったんですが、今回はそれが強かったというか。
だんだん湯川准教授の人間味が前面に出されてきたように思います。
今回の短篇集は、ほんと気軽に楽しめる作品が集まった感じです。
8作目となって、いよいよガリレオシリーズもこなれてきたという感じです。
次作は、本作の4つめの話を長編にしたもの。
「容疑者xの献身」とは別の方向から、湯川准教授の内面をゆさぶる話です。
こちらも楽しみですが、長編の前に本作を読んでおくのがよいと思いました。
短くともエッセンスがこもっていて、はらはらする佳作だったからです。