1 本作の概要
25歳の女性編集者がネコの姿をした神様と旅をする話です。
神様とはいえ連れがいる時点でひとり旅ではなかろう。
と率直に思いました。
おそらくなんですが、ほんとに一人旅だと小説にしにくかったのかもしれません。
つまり、弥次喜多のように会話をしながらの方が話が進みやすい。
こういうことなのでしょう。
行き先は、鎌倉、江ノ島、金沢、京都でした。
古都です。
つまり自然ではなく文化系を巡る旅というわけですね。
2 観光地のガイドブックとして
読者に新たな知識を与えながら物語を語るというジャンルはそこそこあります。
マンガでいうと「美味しんぼ」なんかがその典型です。
「美味しんぼ」は食の知識を与えながら、きちんとした物語を作り出しています。
名作といえるでしょう。
一方、本作はどうか。
正直にいえば、観光地の魅力はあまり伝わりませんでした。
そこに行ってみたい。
という気持ちがあまり起きなかったのです。
そもそも本書を手に取ったのは、わたしが鎌倉が好きだからでした。
鎌倉の魅力とか、鎌倉を舞台にしたすてきなお話とか、そういうものを期待したのです。
期待は、まあかなわなかったという感じです。
他の観光地についても似たり寄ったり。
旅のよさが表れていれば、観光地の魅力は増さなくてもと思ったのですが、別に旅路である必要がある話があるわけでもなく。
そういうわけで、うんちく系のお話としては今一つでした。
3 「父」の話
この小説の柱は、主人公が「父」の真意に気づくというものです。
「父」は小説家を目指して、離婚しました。
そのことで娘は「父」の真意に気づくことがありませんでした。
真意を理解する機会は訪れませんでした。
「父」が他界したからです。
だったのですが、ひとり旅を始めたことで「父」の真意に気づくことになる。
こういう構成になっています。
ネコの神様も「父」の想いが関係していたのでした。
また、口の悪い喫茶店のマスター、間接的に主人公を助けてくれる存在ですが、も「父」の関係者だったのでした。
という話なんですが、このエピソードいる?って感じがしました。
神様のいわれって、そんなに身近な理由で語られてもねえって感じです。
神様なんだから、とにかく存在しているでいいんじゃないかとも思うのです。
設定の必要感を考えてしまっている時点で、成功した構成とはいえないんじゃないかと思います。
4 総評
薄味です。
わるいかといわれれば、そこまでわるくはないんですが。
積極的によいというほどでもありません。
その地方を舞台にしたおもしろい話とか、ひとり旅のよさがわかる話とか、そういうのだったらよかったのにと思います。
そもそもひとり旅じゃないですしね。
ひとりだったら、かえってその土地の人との出会いやかかわりが増えたかもしれません。
2巻もあるようですが、今すぐ読みたいという気持ちにはなりませんでした。
主人公など登場人物も、総じて薄味なんだよなあ。