1 本作の概要
湯川准教授、今回は東京を離れ、地方の観光地に行きます。
ビーチがあり海がきれいなところ。
でも寂れている。
そんなところです。
地域は、開発と自然保護で対立していました。
そんなところで、元刑事が事故死する。
そんな事案に遭遇します。
ところが事故死ではなくて…というのが本作の題材です。
いつものメンバーと少し離れて展開するガリレオ。
新たな設定で楽しめる長編でした。
2 保護運動の動機
湯川准教授は寂れた旅館に逗留しました。
ここは列車でいっしょになった少年の親戚が経営しています。
そこで少年のいとこにあたる30才くらい女性がいました。
この方が熱心な環境保護運動家だったのです。
本作の開発対保護は、事件背景のガジェットでして正面からこ問題を取り上げているわけではありません。
ただ湯川准教授の意見として、議論にもなっていない不毛な対立と示されているだけです。
そもそも環境保護運動の動機というものは、何なのでしょう。
公害等を引き起こすのを防ぐというのは、わかりやすいです。
明らかな不利益がありますから。
しかし、昨今の環境保護運動には郷愁やら愛着やらの感情的側面も強いように感じます。
この美しい風景をいつまでも残したい。
まあわからないでもないですが、根拠として強くはありません。
開発された都市も、以前は自然の姿だったわけです。
それを幼少時に体験していないので、郷愁を感じないだけです。
最初の東京オリンピックで下水道がわりに覆われた東京の小河川を元に戻すなんて運動にもならないでしょう。
そういうものです。
それで本作の女性の動機なんですが、自分の父親が故郷に戻ったときの風景を維持することだったんですね。
個人的といえはあまりに個人的、他への波及なんてするはずもない動機です。
しかし、個人的には人生をかけるに値する動機だったのです。
東野さんうまいなあと感心しました。
人間の行動の目的なんてそんなものだし、そんな人間が集まって社会をつくっているのです。
すごく納得できました。
3 子供の犯罪
身も蓋もないネタバレになってしまいますが、本作は子供犯罪です。
事件は2つあったのですが、1つは中学生がもう1つは小学生が行いました。
動機は衝動的だったり依頼を深く考えずに受けたりしたことです。
ですが、どちらもありそうだなあと思いました。
子供は社会的利害関係が薄いので、深刻な動機を大人ほどもちません。
それゆえ、短絡的な行動はとりがちです。
だから、極端に走った場合に悲劇になることはあると思います。
思春期の自殺もそういう傾向があると思います。
湯川准教授は、科学的な可能性からこれらを解き明かしました。
しかし、真実を関係者すべてに明かすことはしませんでした。
そんな義理はない。
ということでもあるのでしょうが、不幸を広げるつもりもなかったからでしょう。
人が死んでいるのですから、無邪気な子供のことだからではすまないのはわかっていると思います。
そういう視点で行ったことではないでしょう。
バリバリの理系の湯川准教授ですが、ここに人生についての考えが表れたと思いました。
まあ、子供が純粋であるというのは信じたい人にとっては真実ですが、全員にとっての真実であるわけもなく、それに純粋って何?ってことにもつながりますからね。
ちょっと環境保護の信念と重なる印象があります。
4 総評
とてもよくできた長編ミステリーでした。
10数年前に解決したはずの事件が現代の事件と関係している。
2つの事件の関係性も読者に探らせるおもしろい構造になっています。
また、ひねくれた小学生の家庭教師になる湯川准教授もおもしろかったです。
ガリレオシリーズの長編は、どれもよくできていますね。
短編が謎解きのおもしろさが中心なのに対して、長編は人間ドラマが加えられています。
このあたりの書き分けがよくできいて感心します。
未読の方に自信を持って薦められるミステリーでした。
- 価格: 858 円
- 楽天で詳細を見る