1 本作の概要
住野よるさんの日常系小説です。
住野よるさんといえば、設定を構築してストーリーで語る小説家です。
本作はエッセイ風の小説で他作とはかなり趣きがちがいます。
というか、わかりやすくいうと4コママンガの小説版といった感じです。
こういう小説は、題材で興味を引けない分をキャラクターや語りで惹きつけないといけないのですが、成功していると思いました。
なんということのない話ばかりですが、楽しめて読めました。
住野さんこういうのも得意なんですね。
芸達者です。
2 「麦本三歩」というキャラクター
どういう主人公かというと、大学を卒業したばかりの図書館員です。
性格づけは、少女マンガの王道です。
おっちょこちょいで、変に前向き。
迷惑をかけているのに周囲に好かれている。
本人は無能を自覚している。
こんな感じです。
少女マンガならば、ここに1点だけ長所があったりするのですが、三歩さんにそれはありません。
まあ新社会人的な年齢ですから、そういうのはいらないのでしょう。
王道は先人の努力の成果だと思うのですが、こういうキャラクターが読者の共感を呼ぶのでしょうね。
読んでいて嫌な感じはまったくなしでした。
現実にこんなミスを頻発する人がいたら距離を取るとは思いますが。
まあこのキャラも20代後半には成立しなくなるでしょうけどね。
庇護できる年齢の限界って、悲しいけどありますから。
性差もあるのかなあ。
1冊通して読んで、嫌な感じは受けないんですけど、三歩さんの考え方感じ方に共感できる部分がありませんでした。
ずる休みするんだったら、もっと派手に休めよとも思いましたし。
三歩さんの好きなものがあまり好きではなかったのですが、好きなことを見つけてそれを楽しんで日々を生きていくというのは、うらやしいと思います。
向上心とか目標とか、そんなのとは無縁の人生ですが。
老荘思想の体現者ともいえるでしょう。
3 図書館員
この図書館、スタッフはほぼ女性のようです。
本って重いからけっこう腰にくるってききましたけど、大丈夫なのかな。
勤めた人の話だと、案外来客の注文がめんどくさくて、クレイマー的な人もたまにやってきてということで、なかなか大変だそうです。
そういう描写はあまりなかったのですが、クレイマーとか三歩さん大丈夫なんでしょうか。
なんか聞こえないふりして、他の職員に仕事をふるみたいな描写がありましたけど、いつもそれだと同僚に嫌われると思うのですが。
まあしかし、この小説の主人公の職場として図書館は秀逸だと思いました。
なんかゆるされそうな感じですものね。
ま、そこは小説なのでご容赦をということなんでしょうけど。
三歩さんは仕事で大成しようというつもりは…、ないようですのでいいのでしょう。
4 総評
4コママンガのような小説を読みたいと思っている人にはうってつけの作品です。
知恵もなければ風刺もなし。
事件も恋愛もほぼほぼなし。
おだやかな日常が続いていく小説です。
こういうジャンルが小説でも成立するんだなあと改めて感心しました。
2巻も出ているようです。
何かの折りに手に取るかもしれませんが、積極的に読みたいという感じではありません。
ちょうどわたしにとって4コママンガがそうであるように、です。