1 はじめに
池井戸潤さんの「民王」です。
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得意の金融ジャンルではなく、政治を題材としています。
とはいえ、真正面から政治家のかけ引きを取り上げたものではありません。
かなりコメディ要素が強い作品です。
途中まで読んだ時に、
「筒井康隆風の作品にしたいのかな」
と感じました。
つまりはドタバタ劇っぽいのです。
今まで読んだ池井戸作品とは異質でした。
2 入れ替わり
入れ替わりを題材とした作品といえば、新海誠監督の「君の名は」がすぐに思い浮かびます。
本書も入れ替わりが題材となっています。
ただし、父と息子の入れ替わりです。
ロマンスも何もあったもんじゃありません。
ただし、この入れ替わりがおもしろいように功を奏します。
息子は総理大臣として国会や記者相手に本音と本質をぶつけます。
父は就活生として面接官の偽善を暴いていきます。
この熱い弁論が本作品を池井戸作品たらしめているところといえるでしょう。
重役会議で正論をぶち上げる半沢直樹と同じですね。
ただし、入れ替わりが輝いているのはこの瞬間だけです。
日常生活では、それぞれのダメなところに引っ張られて、失敗また失敗。
それが二人の人間的な魅力を引き出してはいるのですが。
3 SF要素
さて、この入れ替わりですが単なる不思議現象として扱われてはいません。
そこは政治的世界、何者かの謀略として描かれています。
誰がこんな罠を仕掛けたのか。
ライバル政党か。
テロ国家か。
と様々探っていくのですが、最後は外国の製薬メーカーであることが判明しました。
薬事にかかる規制を撤廃させるために、与党と野党第一がじゃまだった。
これが動機です。
というか、入れ替わりで政治の本道を思い出すという筋書きなら、この謎解きって必須だったのかなあ。
入れ替わりの謎とかじゃなくて、不思議な体験から自分本来の道を見いだすという方が本筋のような気がします。
このSF的な要素の取り扱いって、慣れてないと難しいですね。
虚構上のリアリティの追究は、そう簡単ではないのです。
5 総評
本書は、麻生政権の頃をモデルにしてコミカルにした印象です。
漢字の読みまちがいとか、その頃よく取り上げられた話題がおもしろおかしく入っています。
ですが、この小説は特定の政党を支持した小説ではありません。
かえって政治の本質にせまろうという内容になってます。
わたしの読んだ文庫本は発売後3年で21刷になってます。
相当売れたんですね。
ただし、これまで読んだ池井戸作品とは趣がかなりちがうので、半沢直樹などが好きな人が好きになるかはわかりません。
ただ、コミカルな作品も書けるという池井戸さんの守備範囲の広さには驚きます。
楽しい小説、スカッとする小説を読みたい方には、お薦めです。