1 はじめに
今回は、わたしが初めて読んだ池井戸潤さんの小説について述べます。
陸王です。
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役所広司さんの主演でドラマ化されていました。
というか、たまたまそのドラマを見て(これ、おもしろい)とハマった感じです。
小説は、ドラマが完結してから読みました。
小説の方がドラマよりも薄味な印象でした。
おそらくは、演じた役者さんの演技力のせいだったのでしょう。
しかし、だからといって小説がつまらないということはなく、とてもおもしろいものでした。
2 中小企業の復活
本書のテーマは、中小企業の復活です。
「こはぜや」さんは、足袋メーカーです。
ご存じの通り、足袋に爆発的な需要はありません。
細々とお得意様の販路を維持しているくらいです。
しかも、年々先細り。
そこで社長は起死回生の策にでます。
新たな分野への挑戦。
運動靴、具体的にはランニングシューズを作ろうと決心しました。
成功に向けての挑戦が始まります。
3 数々の困難
最近ではもう当たり前になってしまいましたが、数年前に高速ランニングシューズが話題となりました。
箱根駅伝で多くのランナーが履いていたことも話題となっていました。
このくらい、ランニングシューズは科学的に作られていて、軽量化も極限まで進んでいます。
世界の大手スポーツメーカーが莫大な開発費を使って、作っているのです。
常識的に考えて、足袋メーカーが参入できるものではありません。
しかし、「こはぜや」さんには、社長の人柄なのか多くの助言者が集まります。
中でも、繭から作ったシルクレイというソウル素材と出会えたことは、シューズづくりの転換点になりました。
この技術を独占的に使うことができたことで、一流メーカーと品質で渡り合えるようになったのです。
4 売り込み戦争
メーカーは、一流選手に自社の靴を履いてもらいたいのです。
自社の靴を履いた選手が有名な大会で優勝すれば、大きな宣伝になるからです。
そのため、シューフッターという選手に合う靴を提供する専門職をやとっています。
しかし、選手にも浮沈があります。
大きな大会で順位を落としたことで、メーカーから見切りをつけられ、靴の提供を打ち切られる選手もいます。
「こはぜや」さんは、そういう選手に目をつけました。
自社の境遇と選手の境遇を重ね合わせたところもあるのでしょう。
その選手が復活すると、見切りをつけたメーカーがまたすりよってきます。
「こはぜや」の靴を履かないように、チームやコーチに圧力をかけます。
また、「こはぜや」に靴の材料を売らないよう布メーカーに圧力をかけたりもしました。
また、「こはぜや」に身売りの話も持ち込まれました。
そうした様々な困難を、一つ一つ乗り越えて行く。
ここがこの話のもっともおもしろいところです。
5 総評
ドラマでは、「こはぜや」のシューズ陸王は、足袋の形をしていました。
小説では普通の靴型です。
足袋型のシューズというのは実際のメーカーでも試作したことがあるそうです。
しかし長距離を走ると親指と人差し指のつけ根に痛みがはしったりするため、採用されなかったそうです。
ドラマでは陸王のキャラを立てるために敢えてあの形にしたのかもしれません。
このお話は、現代の夢物語です。
実際の中小企業は、大企業以下のピラミッドに組み込まれ、得意先を失わないように仕事をしていることが多いと聞きます。
自社の独自技術をもっているなんて、ごく少数です。
また、大企業と渡り合うような売り込み合戦など、できるわけもありません。
しかし、やる気や信念があれば、中小企業でも勝ち抜ける。
そういう夢を見させてくれる作品です。
わたしは純粋にこのお話が好きです。
弱小高校野球部が甲子園をめざす。
そういうものと同種です。
現実には難しいでしょうし、起こる確率は極めて低いでしょうけれども、そういうお話しが聞きたくて仕方ないのです。
誰だって可能性と挑戦が好きだからです。
お仕事版のスポ根ものともいえるでしょうが、夢中になって読むことができる作品です。
元気を取り戻したい人にぜひお薦めします。