1 金融探偵とは
今ある仕事がなくなったら、明日からどうやって暮らしていこう?
誰もが一度は感じる不安です。
本作の主人公、大原次郎はそういう境遇に陥った一人です。
勤めていた銀行が精算されることとなり、その前に退職となったのでした。
職探しをしながら、頼まれごとの相談にのっていくうちに、身に付いた金融の知識で難問を解決する。
そんな役回りとなっていました。
「金融探偵」の誕生です。
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2 お金の使い方は人柄を表す
池井戸さんの小説には、時折でてくる表現です。
預金通帳の動きを見れば、その人がどんな生活、どんな性格をしているかがわかる。
いや、恐ろしいですね。
しかし、現代はお金でなければものもサービスも手に入れられない時代です。
確かにお金を何によって得ているか、何に使っているかがわかれば、少なくともその人の生活がわかります。
政治家が危ないお金は現金で渡す、といっていたのもわかりますね。
通帳とかの金融取引がわかるものに残してはいけないということです。
自分もスマホで家計簿を付けるようになって、自分がよくわかりました。
けっこうスナック菓子などを買っています。
こういうことの累積から自分の性格や趣味もわかっていくのですね。
ところが、この手法も万能ではありません。
主人公の大原も悩むところが大きいのですが、大まかなところがわかっても具体がはっきりしないのです。
そういうところは、普通の探偵のように聞き込みや証拠あつめが大事になってきます。
金融探偵といっても、金融問題ばかりが持ち込まれるわけではないからです。
3 金融ではない謎
本作は短篇集です。
1話の「銀行はやめたけど」は貸し渋りが題材でしたので金融っぽかったのですが、2話目の「プラスチックス」は背乗りというかなりすましの財産乗っ取りの話、3話目の「眼」はオカルトっぽい解決の現金輸送車強盗の話。
とこのように、どんどん金融から離れた探偵の話になっていきます。
ですが、金融から離れた話がつまらないかというと、そんなことはありません。
着想がおもしろく、謎にどんどん引きこまれる話となっています。
なんか「失業探偵」の方が実態に沿った名前じゃないかと思いました。
もうほとんど私立探偵ものになっています。
4 総評
池井戸さんの短篇集というと「かばん屋の相続」など、金融を題材にした人間模様かなと思っていたのですが、裏切られました。
もっと軽いほんとの推理ものです。
それでいて、つまらないということもありません。
視点がおもしろいものがほとんどでした。
ただ「下町ロケットシリーズ」とか「半沢直樹シリーズ」のような重厚な感じはありませんので、そういったものを期待すると少しちがう印象をうけるでしょう。
雰囲気としては「民王」に近いかな。
気軽にさくっと読むにはいい本です。
そして満足度も高いと思います。