1 本作の概要
雨穴さんのホラー風ミステリーです。
先に書評した「変な家」と同系統だと思います。
しかし、こちらの方がおもしろかったですね。
作品の構成もよく練られています。
4枚の絵それぞれにまつわる短編が納められています。
つまり4作の短篇集から成っています。
しかし、この4作はばらばらの事件のようで1人の人物が起こした4つの事件、すなわち1つの物語なのでした。
2 絵の解釈
わたしは多少大学で心理学を学んだことから、絵の心理的な解釈については基本的な知識があります。
もちろん、美術的な鑑賞などはできません。
そもそも、臨床心理学で遊び(ロールプレイ)や絵の解釈などが使われるのは、見えないし言語化が難しい心理をつかもうとするからです。
言語使用が未熟な幼児にこのような手法が使われるのは、対話ができないからなのです。
また、大人であっても、自分の心理に自覚的でなかったり、あるいは言語化することに抵抗がある場合に使われることがあります。
インクを垂らした紙を二つ折りにし、広げてできた模様を解釈するロールシャッハテストなどもこの系統です。
なので、解釈の仕方に決まった手法があるというわけではありません。
熟練の心理士がそれを手掛かりにクライアントの心理を推察するのです。
なので、クライアントの状況や生い立ち、背景などによって同じ絵や模様が違った解釈をなされる場合があります。
というわけで、「真実は1つ」というわけでもないんですね。
そういう意味で、推理小説の証拠的な扱いは難しいと思います。
思いますが、本作で取り上げられた絵は、描いた人のメッセージをこめたという前提になっているので、この辺りは考慮されていたのかなと思いました。
3 犯人像
犯人なんですが、簡単にいうとサイコパスですね。
自分の目的のために人を殺すことに躊躇がないという、そんな人です。
まあ、本作そういう人が犯人じゃないと成立しないのですが。
なにせ、メインは犯罪として表れた人間の側面を描き出すのではなく、絵の解釈の可能性ですので。
ただですね。
被害者のみなさん、みんな人間的ないい人なんです。
それが、一人にサイコパスに関わってしまったために不幸になっていく。
そういう話がかわいそうでした。
虚構を基に論じるのは変でもありますが、関わっちゃいけない人っていますよね。
運の要素もありますけど、「敬して遠ざく」というのは、処世訓として価値があるように思います。
まあ、この犯人、残念ながら同情できる点がありませんでした。
4 総評
ダイイング・メッセージなどは、もっと分かりやすく残してもいいんじゃないかと感じましたが、そうじておもしろい作品でした。
「変な家」よりは楽しめました。
ただ、ここ何冊かミステリーを読んでいて分かったことがあります。
それは自分の好みです。
謎解きが好きなんじゃなくて、犯罪に関わって描き出される人間像を読むのが好き。
自分はこういう好みを持っていたのでした。
池井戸潤さんとか東野圭吾さんの小説を楽しめたのは、そういうことだったのでしょう。
本作のように謎解きメインという小説が好きな人もいるでしょう。
そういう方に、本作は楽しめると思います。
気になった方は、どうぞお手に取ってみてください。
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