1 本作の概要
住野よるさんの青春小説です。
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題名を見たとき「書く仕事」かと思いました。
つまり小説家か何かの話なのかと。
読んですぐに気づきました。
「隠し事」つまり秘密ってことですね。
本作は群像劇で、主人公5人それぞれに隠し事があるというお話です。
住野よるさんの小説らしく設定が凝っていて、それが題名になっているのです。
この隠し事は、各人の事情とか恋愛感情とかそういうものではありませんでした。
簡単にいうと超能力です。
各人、限定的なテレパスなのですね。
他人の心理一部がわかる。
そういう能力を持っているのです。
そういう人たちの高校生活を淡々と描いた小説です。
2 特殊能力
それで、話の軸が何になるかというと、高校生らしく自己アイデンティティの確立と恋愛だったりします。
このあたりは思春期小説の王道なので、まあそうでしょう。
実際、高校生活の悩みなんてそんなものでしょうし。
それで、疑問や驚きが読める男子が心のプラス、マイナスが読める女子に恋をしています。
それで、心の一部がわかるのだけど相手の心のすべてはわからない。
なので、誤解やすれちがいが生じてしまいます。
その他、心の心拍数が読める女子、好意の向きがわかる女子、喜怒哀楽がわかる男子などとの交流や援助を得ながら恋愛の成就に向かって進んでいく。
こんな小説でした。
この設定がおもしろいといえばおもしろいのですが、それほど必要な設定だったかというとどうかなあ。
というのも、表情やしぐさ、会話の解釈などで相手の心理を探っていくのが恋愛小説でして、そういう能力がなくともだいたいの恋愛小説は成立しています。
本作もこの能力がなければ、成立しない話かというとそうでもないと思います。
わたしの誤読なんですが、第1話の主人公は「?」「!」などが頭上に浮かぶのが見えて、それで気持ちの一部がわかるという設定なんですけど、これがわからずに読み進めていました。
つまり、主人公は相手が驚いたという表現を「!」が浮かんだと表現しているのだと、こう思って読んでいたのです。
さすがに第2話まで読み進んだときには、そうじゃないということに気づきましたけど。
まあ、もしかすると心の一部が読めても、あるいは全部が読めても、相互理解はやっぱり難しいということを表現したかったのかもしれない。
そうとも考えましたが、効果のほどはどうだったのでしょうか。
3 総評
青春の一面を切り取って表現する青春小説は好きです。
人間誰でもみずみずしい自分の若い頃の感性が好きだからです。
その年代であれば共感をもって、歳を取ってしまえば郷愁として好意的に振りかえるからです。
この小説もそういう意味では、よいと思える部分もありました。
しかし、総じて薄味で、もっと本音をぶつけあったり、本気で悩んだりする姿を読みたかったように思います。
設定は設定としておもしろいのですが、小説の魅力というのは設定だけではありません。
その設定の中で、何がどのように表現されているかなのだと思います。
そういう意味から、不完全燃焼な小説でした。
絵画でも音楽でも、形式も大切ですが内容も重要なのだと思います。