1 はじめに
組織の中でどうふるまえばよいか。
こういう問題って,いつになっても存在します。
組織というほどでなくとも,人の集まりであればやっぱりあるでしょう。
私は,こだわりなく波風立てなく過ごしたいと思っています。
特に勤め先では,ですが。
今回,このことを話します。
2 開高健『パニック』
若い頃に読んだ小説です。
開高健は釣り好きなので,それ関係の書籍はよく読んでいます。
これはそういったものではなく,人間の一面を描いた小説,純文学といってよいと思います。
小説の題材は動物災害なんですが,印象に残ったところはそこではありませんでした。
主人公は公務員なんです。
その中で自分の考えを上司や周囲に納得させるのが大変そうです。
主人公もそのことをよく分かっていて,その上で様々な対策をしていきます。
とても歯がゆく,一丸となって取り組めば解決するのに。
しかし,それが組織の一員としてのふるまいなんですね。
このことが特に印象に残りました。
学生の頃読んで,正直こんな感じで働くのは嫌だなあと思いました。
でも,社会人になるとまあ組織や人は違えど,よかれと思うことをするのは大変だということは少しですが実感しています。
こんなもんなんですね,世の中って。
みんな思惑がありますからね。
こういうのって日本的だとか,空気の研究とか,そういう風にも話されますけど,人間社会だったらどこでもありそうな気がします。
私は面倒ごとからできるだけ距離をとりたいタイプですけど,そういうふるまいが許されるばかりじゃないですからね。
主人公も最後の場面で,人のむれに戻るといっています。
象徴的な言葉だと思います。
3 森鴎外「阿部一族」
私にはこの話は,どこを評価してよいのか分からないところがあります。
硬質な文体で,私は好きですが,漢文に親しんでいるものにはめずらしくもないでしょうね。
この小説は,乃木大将の殉死に関しての世論に触発されて発表されたということもあるとか。
殉死が題材なのは間違いないでしょうけれど,注目したのはそこではありません。
殉死の是非よりも,組織の中の過ごし方がやっぱり気になります。
発端は,阿部の当主が主人の覚えめでたくなかったことでした。
めでたくないというか,何となく苦手にされていた。
まじめでそつがないんですが,人に好まれない。
そんな人っていると思います。
で,殉死の許可がおりなかったと。
そして,そのことに伴って周囲で悪い噂話がたち,面子が立たなくなりました。
そういう連鎖で組織からはじき出されます。
結局,一族誅滅まで進んじゃうのですが,それもこれも組織内のふるまいによってという感じがします。
人の命が軽い時代だからのこととは思いますが,そんなことが人生を左右するんだなあと思いました。
意地の張り合いという評価があるとのことでしたが,個人の意地というより人間組織の病理のように思えます。
こんな組織で幸せに生きる方法ってあるんでしょうかね。
たまたま幸運だった以外で。
4 最後に
むしろ,鶏口となるとも牛後となるなかれ。
組織の頭になれば,そんな悩みはないよ。
そういうことにつきるのかなあとも思いますが,組織というか人の間で生きるって難しいと改めて思います。
それでも,日々を過ごしていかねばなりません。
これが人生かなあ。
まあ,今の時代そんな人生でも自分なりの楽しみが見つけられますので,嘆かずよりよい生き方を,初老になった今からも探していきたいと思います。