1 ロング・セラー
本書は1967年刊行で、わたしが持っている1冊は121刷です。
とてつもないロング・セラーですね。
社会人類学の手法をもって、日本社会を分析した本です。
文体が非常に硬質で、むだがなく非常に読みやすかったです。
叙述も論理的です。
英文に翻訳しやすいというか、印象としてはそんな感じです。
実際、英語版とフランス語訳があるらしい。
英語訳ではないということは、著者が書いたということでしょうね。
ちなみに著者は女性なのですが、まったくジェンダーレスな感じの本でした。
2 日本社会の特質
よくムラ社会といわれる日本社会。
そのムラの特質を余すところなく暴き出しています。
家族主義というのは、インドでもみられるのだそうですが、日本社会は情緒的同質性を高度に要求するものだそうです。
どういうことか。
要は、ブラック会社の求人情報、「アットホームな会社です」でしょう。
考え方のみならず、感情も同質性を強要するということです。
これは令和の現代でも、生き残っていますね。
「風通しのよい会社」というのは、議論していいっていう意味じゃありません。
適度に愚痴をいっても慰め合えるっていう感じのことです。
決してよりよい結論を求めて、探求するってことじゃないです。
そして、日本はタテのつながりが基本である。
日本は松葉のような枝分かれが上からつながっていく社会です。
ヨコのつながり、三角形の底辺のようなものはありません。
上下で意思疎通をしていきます。
情緒的でタテ連結の社会には、どのような利点があるのでしょうか。
それは、物事に対して迅速に集中して取り組み、結果を出すことに適していることです。
つまり、結果を速く出せるってことです。
意志決定の上のものがする。
それを組織の末端まで行き渡らせ、情緒も同一にして取り組む。
あたかも、一個の生物のような動きです。
弊害は、もうわかりきっていますね。
個の抑圧です。
日本社会、特にムラ社会は息苦しい。
田舎だけでなく会社の中も、業界団体の中もです。
「原子力ムラ」といった用語は今でも使われますね。
日本は、ルールに準拠した行動ではないのです。
同調による行動が主になるわけです。
3 日本のヨコつながり
それでは、日本にヨコのつながりはないのか。
実はあるんですね。
同期というやつがそれです。
同級生などもそうでしょう。
そういう連帯感があるのです。
これは、組織的なつながりではなく情緒的なつながりです。
そして、排他的でもあります。
先輩、後輩などが今でも生き残っているのは、同期が生き残っているからです。
アメリカのジョブ的な働き方を導入せざるを得なくなって、変わっていくだろうといわれています。
しかし、どうでしょうか。
案外、情緒的な安心感があるため生き残るような感じがします。
もちろん、同期の間では、多少の差はあるにしろ平等が基本です。
少なくとも権利の上においては。
しかし、このヨコのつながりはあくまで自分の組織の中でだけです。
「ムラ」を飛び越えて連帯することは、まずありません。
4 総評
もう50年以上も前の本なのですが、日本社会の的確な分析に驚きました。
そして、日本社会がその組織上の特質をまったく変えずに令和の時代まで残っていることい驚きました。
こういう文化的な継承というものは、かなり強固なものなんですね。
自分が属している勤め先でも、ほんとよく当てはまります。
一番、そうだと感じたところは、上司は有能でなくともよい、むしろ有能ではない方がよい、という点でした。
組織の下部にいたとき、有能であった者でも、上司となれば有能さを発揮するのでない。
上司は部下の調整をするのだ。
部下に自分の仕事させてもいい。
自分が部下の仕事を奪ってはいけない。
意志を示して調整する。
それがこの組織の上司なのだ。
日本で上司が長老なのは、必然性がある。
これは、ほんとうにそうだと思います。
うちはそうではないよという会社もあるでしょう。
それはほんとうに斬新なんですよ。
しかし、会社を越えたヨコのつながりはないでしょう。
それが日本社会なんですね。
ロング・セラーになっているのもわかる本です。
組織について興味がある方は、ぜひ読んでみてください。