1 本書の概要
池井戸潤さんの下町ロケットシリーズの2冊目、ガウディ計画です。
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登場人物は下町の中小企業、佃製作所の面々。
主人公は、やっぱり熱い社長佃航平です。
今回は医療分野にバルブ技術で挑みました。
2 心臓医療とバルブ
はじめに持ち込まれたのは、極小型のバタフライバルブの試作。
使用目的もなく、赤字になるような予算での依頼です。
量産すれば黒字になるかも、という内容でした。
下請けを軽んじる態度で臨む相手企業。
しかし、先行投資の意味もあって取り組みます。
が、やはり試作だけで契約終了。
体よく利用されただけとなりました。
量産の契約を取ってのは、サヤマ製作所。
NASAに勤めていた2代目が社長となってから業績を伸ばしている会社です。
ここと帝国重工のロケットバルブについても争うことになりました。
一方、佃をやめた社員から心臓用の弁の試作を依頼された佃工業。
医療は製品に欠陥があった場合、巨額の補償が要求されるハイリスクな分野。
しかし佃社長はこれにも挑みます。
4 「白い巨塔」
あれで、医学界というのは権謀術数の世界というイメージを持った人は多いでしょう。
わたしもその一人です。
本書でも、医学界のそのような側面が描かれています。
特に、製品の認可の場面で。
その分野の顔ともいうべき医者の力は巨大です。
佃製作所は、その力の前に挫折すると思われたのですが。
4 ホワイト企業とは
今回の話で、佃製作所をやめライバルのサヤマ製作所に転職する社員が大きな役割を果たします。
転職のの理由は、自分への評価。
この社員は、佃製作所での評価に納得せずにサヤマ製作所に移ったのでした。
しかし、サヤマ製作所は成果主義の権化のような社風。
結果がでないと、様々なプレッシャーがかけられます。
この社員は、佃の設計図を横流しまでしていたのですが、結局は精神がやられてしまいました。
哀れです。
ホワイト企業って何なのだろうって考えさせられます。
自分がある程度の判断ができるような仕事をすることなのかもしれません。
望まない仕事を望まない仕方でさせられる。
自由がまったくない。
こういうのが、精神を病むのかもしれません。
佃製作所は夜遅くまで働いているブラックな企業です。
そして、経営が安定しているとはいえない事態がよく起きます。
しかし、働いている社員は楽しそうです。
ホワイトとはいえないでしょうが、ブラックとも言い切れない。
仕事とは何かを考えさせられました。
5 医療事故と医師の良心
さて、佃製作所が最初に試作品を作ったバタフライバルブですが、人工心臓を部品でした。
この人工心臓を使った患者が亡くなります。
原因は容態の急変のようにまとめられますが、真相はバタフライバルブの不具合。
実験データが偽造されていて、起きるべくして起きた不具合なのです。
医者・メーカーの暗躍によって事故を闇に葬ろうとしますが、週刊誌がかぎつけ…。
となり、いろいろな野望は潰えていきます。
そして、人工心臓製作のトップだった医師も原点を思い出して改心。
という流れになっていきました。
ここで医師が改心することをどうとらえるか。
そんなやつ変わらないんじゃないか。
という意見にも説得力があります。
しかし、池井戸作品、特に下町ロケットシリーズでは、この改心が必要でしょう。
人間を信じている作品ですから。
6 総評
2作目も非常におもしろかったです。
このシリーズは、人間のよい面を信じるというところが強調されています。
主人公の佃航平はその象徴のような存在です。
実際の経営となれば、人よりも自分という輩が多いのでしょうけれども。
逆にそういう世の中だからこそ、こういう作品を読みたくなるのだと思います。
佃航平にしても、営業も社内管理も上手とはいえない。
だけれども、人を信じて邁進する。
そこに多くの読者が共感し賛辞を送るのだと思います。
いい読後感の小説でした。