1 本書の概要
世界に通用する技術で生きる中小企業のお話です。
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ドラマにもなっていますが、未見でした。
主人公は、元ロケット開発者で中小企業の社長。
先進的な技術がありながら、日々の資金繰りに追われる毎日。
仕事の夢と現実。
その狭間で生きる人間の物語でした。
2 中小企業と大企業
お話は経営の現実から入ります。
まずは得意先からの納入打ち切り。
営業成績ががた落ちです。
非情ですが、商売ではよくある話でしょう。
次は主力銀行からの運転資金の貸し渋り。
弱り目にたたり目です。
最後はライバル企業からの特許訴訟。
もう倒産してもおかしくない状況です。
どれだけ苦しくさせるんだという展開です。
しかも、どれを解決しても現状維持が精一杯で、明るい展望はなし。
小説のスタートは暗い感じで始まりました。
さて、こんな中で印象的だったのが中小企業と大企業の関係です。
大企業が中小企業と契約を結ぶ時って、これほどかってくらい高圧的なんですね。
ちょっと嫌みを感じるくらい。
小説なのでおもしろく脚色しているのもあるんでしょうけど、現実はこういうこともあるんでしょうね。
本書の場合、相手方は怒らせて契約を結ばせないという考えもあったと思いますが。
そして、銀行も極端でしたね。
儲かると思えばすり寄る。
損すると思えば切り捨てる。
これを一人の人間が同じ相手にしているかと思うと、やられる方もですがやる方も精神削れられてますね。
世知辛い世の中です。
3 企業経営と長期と短期
何が会社の利益になるのか?
経営なんてしたことないわたしには想像もつきません。
短期的な、つまりに目先の利益を確定した方がいいのか。
それとも、長い目で見て利益になる方がいいのか。
社長の佃も悩みます。
そんな悩みの中、佃は自己認識と社員が自分をみる目のギャップに驚きます。
滅私奉公ではないけれども、会社のために自分を犠牲にしてきたと感じていた佃。
しかし一部の社員からは、社長がしようとしていることは社長の趣味だと断じられます。
難しいですね。
決して自分が恣意的に会社を動かしていたのではなく、長期的には会社のためになると考えていたのに。
結局、佃は夢ややりがいがあってこその会社という考えで動きます。
よくぞ決心したと思いました。
4 社内融和の難しさ
とはいっても会社も人間の集団です。
なかなか一枚岩にはなれません。
ここで、評価というものがからんでくるんですね。
自分が正当に評価されていないと感じた人物は、はみ出した行動をしがちです。
佃の会社でも、起きました。
難しいのは、この社員が行ったことが悪意あってのことではなかった点です。
彼は彼なりに会社のことを考えての行動でした。
しかも、家庭持ちで退職することもわかっていての行動です。
佃の怒りはもちろんですが、この社員を悪と切ることもできず。
人間の集団をまとめるということは、本当に難しい。
最後には収まったのですが、利益を生み出す以外にも会社運営の難しさがあることを示しています。
理系出身の佃がよくまとめていたと感じました。
5 総評
これは、いわば現代のおとぎ話です。
中小企業が、科学技術の最先端であるロケット事業の一翼を担う。
しかも核心的技術の部分で担う。
そして、会社も飛躍する。
そういう夢を見させてくれる作品です。
しかし、そこにでてくる困難がいかにも会社の日常的なできごとで、リアリティを感じさせるようになっています。
佃は、一度失敗した男がもう一度立ち直るという再チャレンジの星でもあります。
そういう意味で、パーフェクトな人ではないけれども、共感できるヒーローとして存在しているのではないか。
そう思いました。
この小説で、直木賞を受賞したのでした。
それもわかるくらいの完成度です。
未読の方、人生の損です。
早く読みましょう。