1 本書の概要
池井戸潤さんの金融小説です。
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倒産にからむ金融犯罪が主な題材です。
主人公は元商社マンの高校教師。
家出した女子高生の相談を受けます。
女子高生は中小企業の社長の娘。
なんとその会社不渡りを出して倒産間際です。
そこで期限前の社債をなんとかお金に換えられないかと主人公に相談したのでした。
と、ここまではよくある話なのですが、その社債を発行していた会社が普通じゃなかったのです。
2 どす黒い企業城下町
しかし、期限前の社債を償還してくれるはずもなく途方にくれます。
しかし、この会社は相当おかしな会社でした。
小さな町の経済を支える会社なのですが、なんと商品券として自前の通貨を発行していたのです。
そのお金も5年後にお金に換えますというもの。
しかし、当然のことながら日本円と同等の扱いを受けるわけもなく、その企業と取引のある会社がしぶしぶ支払い代金として押しつけられたものなのです。
子会社、孫会社と資金繰りが苦しくなる中で、社員の給料もその商品券で支払われます。
額面よりも割引されながら使われる商品券。
ババ抜きのような私通貨となっています。
町が明るい雰囲気になるわけもなく、金の毒におかされたようです。
本書では、この町の造形が一番の迫力がありました。
お金の魔力を見事に描ききっていると思います。
3 マネー・ロンダリングと計画倒産
そんな商品券で決済しているくらいですので、この会社の経営が健全なわけはありません。
表簿上はきれいなんですが、それはもちろん粉飾。
早晩、立ちゆかなくなることは確かです。
実は倒産することを前提にして、この会社をマネー・ロンダリングに利用している者がいました。
マネロンは不法に取得したお金を当局に怪しまれることなく普通に使えるようにすること。
どうやら麻薬売買にかかわるお金のようです。
ますます不透明さが増していきます。
それはさておき、女子高生の父の会社ですが、やっぱり金策はつきました。
倒産かと思いきや、企業買収にあいます。
それによって破産などはのがれたのですが、買収の目的が黒い。
どうやら、先のおかしな会社は計画倒産を企んでいるらしく、社長の資金を隠す受け皿として女子高生の父の会社を買収したらしいのです。
ますます混迷してきました。
4 破綻
最終的に、計画倒産は失敗し、普通の倒産をしてしまします。
先の商品券はただの紙切れ。
外れ馬券もかくやといった感じです。
それでも、うわさや憶測で人をだましもうけようとするやつらは現れます。
もうあの町は地獄絵図。
恨みと復讐のごった煮でした。
すべては収まるところに収まり、日常が戻ります。
もちろん、以前の日常と異なる場所に立っている人が大多数ですけれども。
5 総評
池井戸さんの小説は、正義と倫理がとおる作品が多いのですが、これは逆。
「シャイロックの子供たち」と同じくお金の暗い面が強くでています。
であっても主人公が強い意志の倫理をもっているのが池井戸作品。
高校教師も女子高生も最後まで、ぶれずにつき進みました。
そういうところでの爽快感はあります。
表題の「架空通貨」は私企業の出した商品券のことでしょう。
これがお金の暗い面を強く表現しています。
この商品券を出した会社の社長は、ほんとに金こそすべてという信念を持っていて、他人にもそれを披露しますが、どちらかというと哀れな感じしか受けませんでした。
主人公は爽やかなんですが、読後感は爽快とは言い切れず。
お金にまつわる人間のいやな面を見せられた気がします。
しかし、読み応えのある金融犯罪小説であることは確かです。
興味ある方は、ぜひ一読を!