ギスカブログ

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【ネタバレ書評】池井戸潤「下町ロケットゴースト」

1 本作の概要

佃航平社長が奮闘する下町ロケットシリーズの3作目です。

今度は、農業機械へのチャレンジでした。

おなじみ下町の中小企業小型エンジン製作会社、佃製作所の繁盛記なのですが、今回会社の浮き沈みにあうのは、佃製作所ではありません。

アゴーストという会社です。

佃製作所の新規取引先で、トランスミッションを製作している会社です。

そういう意味で、今回佃社長以下の面々は脇役にまわったような感じです。

それでもやっぱりおもしろいのが下町ロケットシリーズ。

今回も熱い話でした。

2 新たな分野への進出

きっかけは、帝国重工のスターダスト計画の見直しです。

スターダスト計画というのは大型ロケットを打ち上げるプロジェクト。

ここのエンジンにバルブを供給しているのが佃製作所です。

しかし、スターダスト計画がなくなれば、バルブも売れなくなる。

ということで、新たな分野の開拓に乗り出すのでした。

そこで白羽の矢が立ったのがトランスミッションの製作です。

しかし、まったくの新分野なのでまずはトランスミッションの重要部分だけを作ることにしました。

それはトランスミッションにオイルを送るバルブ。

これなら今までの技術的蓄積が活かせます。

そして、そのバルブを売り込む先がギアゴーストだったのでした。

3 特許訴訟

アゴーストが巻き込まれたのは特許訴訟でした。

主力商品がライバル社の特許を侵害していたというもの。

被害額等で請求されたのが15億円。

もう会社をたたまなくてはいけない金額です。

金策も尽き、裁判に勝てる要素もなく。

といった八方ふさがりを助けたのが我らが佃社長。

弁護士を紹介し、特許無効とするための論文を探してみせます。

そして、この特許訴訟そのものがギヤゴーストをはめるための罠でした。

なんとギアゴースト側の顧問弁護士が相手方に通じていたのです。

すごい裏切りですね。

そういった一連のことが公判で明らかになり、ギアゴーストは裁判に勝ちます。

うまくいったかに見えたのですが。

4 暗い情熱

ここで佃製作所とギアゴーストの提携が成るかと思いきや、ギアゴーストは世話になった佃製作所を袖にし、ライバル会社と提携します。

なんてことだ!

これには、ギアゴーストの社長の個人的な恨みがあったのです。

アゴーストの社長は元帝国重工の社員。

社員時代に自分を陥れ左遷させた人物に復讐をしなくてはならない。

そのために佃製作所のライバル会社と手を組んだのです。

人間の業っておそろしいですね。

と、ここまでで本作は終了。

続きは次巻となりました。

5 総評

アゴーストの社長は、天才エンジニアとして登場しました。

しかし、本作の最後には復讐の情念にとりつかれた男となってしまいました。

こういうのは、人間の行動力の源泉だったりするのですね。

中国通史の最初、司馬遷史記は読み物としてもおもしろい歴史書です。

しかし、そこで登場人物、歴史上の人物なんですが、をつき動かしているのは、暗い情熱です。

復讐とか執念とか、そういうものです。

司馬遷は、愛とか仁とかそういうものが人を動かすのと同様に真反対の情念が人を動かすことを知っていました。

人間には、そういう側面があるのです。

このギアゴーストの社長ですが、会社を興した時はプラスの情念で動いていたのです。

しかし、復讐の感情にとらわれてしまい、最後にはマイナスの情念で動くようになってしまいました。

この方の今後はどうなるのでしょう。

次巻がとても気になる終わり方でした。

全体として、おもしろい作品だったのですが、下町ロケットで期待している佃節が聞けなかったのが残念です。

おそらく、次巻で爆発するのでしょうね。

とても楽しみです。