1 本書の概要
短編集です。
推理小説、青春小説、科学小説、幻想小説、恋愛小説が一つずつ。
それらが相互に関連しているという構成です。
それで題名が「すべてを知っている」。
読者が登場人物の知らない世界の秘密を知っている。
とまあ、こういう工夫です。
ノウイットオールには知ったかぶりという意味もあるそうで、まあ全知視点だからといっていい気になるなってこともあるのかもしれません。
2 コンセプト・アルバム
ロック・アルバムにコンセプト・アルバムという種類があります。
アルバムまるごと一つのテーマでそった楽曲でつくったアルバムです。
まあ、たいていは歌詞の内容が相互に関連していて、ストーリーになっているものが多いです。
ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」が最初と聞いたことがありますが、このアルバムは聴いたことがありません。
わたしが好きなコンセプト・アルバムはこれです。
一時期ほんとうにずっと聞いていました。
さて、コンセプト・アルバムって、思ったよりも多くのバンドがつくるのですが、名盤扱いされているのはそんなに多くありません。
コンセプトが崇高で、構成意識も高く、創造性にあふれている感じがするのですが。
なぜか。
理由は単純。
思想が高踏であろうとも一つ一つの楽曲がつまらなかったら、心が動かないからです。
結局、楽曲の質が全体のコンセプトよりも重要。
当たり前といえば、当たり前の話なんですが。
3 個々の短編の質
それで本作にもどると、まあ分かりますよね、ここの短編の質はどうなんだって話になります。
おもしろかったのは青春小説「イチウケ!」。
これが青春の理想と現実をよく表現していてよかったです。
登場人物にも共感できました。
それ以外はどうかというと、正直にいえば退屈でした。
推理小説は大した推理はないし、科学小説は科学というよりバトル小説、幻想小説は骨を吸うというアイデアだけが印象に残った感じで、恋愛小説はもう覚えていません。
途中から早く読み終えたいという作業になってました。
相互に関連しているといっても、まあそれで壮大な何かが解き明かされるわけではなくて、登場人物の動機とかそんなのがちょっと分かるぐらいなので、そこにそんなにロマンは感じないというか。
それでいて、各キャラクターが魅力的でキャラクター小説になっていればまた別の印象なんでしょうけど、そうでもないというか。
そんな感じです。
4 総評
表現において実験って大事だと思います。
そこからあらたな手法やジャンルが産まれたりするので。
なので、こういう構想は好きですし、それを出版する出版社もいいと思います。
ですが、問題はやはり質。
しかも、本作、一つ一つの短編を敢えて異なるジャンルの小説にするという凝りよう。
これで質を上げるって難しいと思うのですよ。
このジャンルで傑作できるかもしれませんし、そうなったら開拓作として評価が高まることでしょう。
とは思うのですが、自分が本作の続編があったら手に取るかといったら、まあ微妙ですね。
実験作ですので、そういう「メタ作性」ともいうべき味わいを楽しみたい方にはおすすめします。
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