1 本作の概要
特別でありたいと願う少年が特別な体験にとらわれて人生を送るという話です。
特別でありたいと思うというのは、思春期の一般的な心情です。
大人になってもそうかもしれません。
このテーマで思い出すのは「涼宮ハルヒの憂鬱」です。
まあ本作とは趣がずいぶんちがいますが。
そして、過去の体験にとらわれるというテーマだと思い出されるのは、新海誠さんの「秒速5センチメートル」です。
小説版もあるのですが、元のアニメの方が印象が強いですね。
本作の題材は、異世界とのコンタクトです。
この題材だと異世界との相互理解とか、そういうのがテーマになりがちです。
しかし、本作はちがいます。
主人公は、異世界とのコンタクトを特別の経験としてとらえます。
そして、異世界とのコンタクト以外を価値のないものとし、残りの人生を余生として生きようとしています。
つまり、異世界は主人公の特別なものを与えてくれた存在という意味しか持っていないのです。
なんというか、異世界がかわいそうです。
2 選民意識のなれの果て
わたしは本作の主人公に嫌悪感をもちました。
自分の生きる世界、人生に価値がないと感じるのは、まあ思春期ならよくあることです。
世界や人生への期待の裏返しでもあるのですから。
この主人公の嫌なところはいっぱいあるのですが、他人の認識の仕方に端的に表れています。
自分にとってどうでもいい人間を「田中」といい、「田中」よりは少し変わっている人間を「斎籐」と呼んでいます。
外界に価値を見いださないのはその人の思想だからどうでもいいんですが、あからさまに他人を下に見ているのはどうなんでしょうかね。
それは自分の感性なり認識なりを絶対化しているだけで、つまりは自己批判が適切にできないだけでしょう。
主人公は認識できなかったようですが、異世界人の「チカ」と別れたのもこの特別意識を知られたからです。
「チカ」が自分以外の人間と出会っているというだけで揺らぐような特別感。
異世界人として感性や倫理がちがっていたとしても、おかしいと思われる考え。
それを30歳過ぎてから感づいたようなんですけど、でも本当に気づいたかはわかりませんでした。
題名もそうなんですけど、作者は目新しいと思ってこういう設定をしたのかな。
これは目新しくなくて、どっちかといえば思いついたけどつまらないなと思って捨てられてしまったアイデアたちの一つのような気がします。
何より作品全体がこういう思想の人物を好意的描いているのが、嫌だなあ。
3 総評
全部読んだわけではないのですが、住野よるさんの作品で1番つまらなかったです。
主人公が「田中」と呼んでいた人物に価値を見いださなかったように、わたしは主人公に価値が見いだせない。
否定する労力ももったいない。
そんな感じでした。
思春期の思想なんかまじめに論ずるなよといわれそうですが、それでもダメなものはダメなんだなあ。
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