1 本作の概要
高校生の恋愛小説です。
男の子が女の子に好きと言う、まあ言ってみればそれだけのお話。
作者が住野よるさんなので、そこに奇妙な要素がのっています。
それは、死に対する認識。
主人公たちが「死」という概念に向かっているのですね。
とまあ何やら哲学的というか形而上学的なガジェットは盛られているのですが、等身大の高校生を描いた小説ではあります。
展開はゆっくりです。
夏休みに高校生が、家族が死んだ方にインタビューするために旅行する。
行きて戻りし物語。
これだけです。
2 死を探る旅
主人公は寮で暮らす男子高校生。
愛称は「めいめい」です。
この子が夏休みに同じく寮生の愛称「サブレ」と調査旅行に出かけます。
もちろん、めいめいはサブレが好きなんです。
まだ告白してない片思いですけれど。
旅行が少し、じゃなくてかなり変わっています。
先にもいいましたが、自殺者の家族にインタビューをすること。
聞きたいですかねえ。
とは思うのですが、好きな子と旅行するチャンス。
まあそれを生かしたのでしょう。
一緒じゃなければ行きませんね。
変わった趣味の持ち主でもない限り。
それで、自殺者の家族から聞いた話というのがこんなです。
妻からは「浮気を気にして自殺した優しい夫の話」。
娘からは「浮気した男を家族が夫や父として追い詰めて自殺させた話」。
まあ、どちらも生き残った人の思いなんですね。
死の認識が深まったのかどうか?
さらにいうとサブレさんが死に興味があったのは、自分が「死恐怖症」だったから。
それを乗り越えるというか再認識するというのが、彼女の動機なわけです。
でも、生き残った人の認識を知ったことで、死への恐怖は薄まるのでしょうか?
3 旅小説として
ロードムービーというか旅小説というのは、昔からある小説です。
ある目的をもって旅をする道すがら、様々な人や事件と遭遇することで精神的に成長していく。
こういう物語です。
旅先で設定を変えることができることから、様々な物語を一つにパッケージできるという長所があります。
この小説もその一つとして考えられるでしょう。
まあ、1箇所にしか旅行していないので小規模ではあります。
さて、めいめいはこの旅行で「死」の概念というよりはサブレに近づこうとしてしきれないということを繰り返します。
このあたりは高校生ぽくていいとは思います。
それで、二人の心理が近づくのが、近しい人が倒れた時でした。
倒れたのはサブレの祖父、逗留先の主人です。
助かったのですが、めいめいとサブレはその時の自分の心理見つめ直します。
まあ、死というよりは自己認識を深めるています。
そこで、なぜか二人の心理は近づきます。
最後、旅を終えて帰ってきた時にめいめいがサブレに告白し、受け入れられます。
そういう旅小説でした。
この小説では、精神的な成長というものはありません。
自己認識が深まったのですが、そこから動くというものではないのです。
さらにいうとテーマぽかった「死」についての考えも深まっていないように思えます。
もしかすると旅小説として読むのはまちがっているのかもしれませんが、不十分というか中途半端な感じがしました。
4 総評
なんのかんのといて住野よるさんの小説は、時々「あたり!」というかすごくいいものがあるので期待して読んでます。
残念ながら、これはあたらなかったなあ。
何もかも中途半端だし、未熟な思春期の若者に共感するということもなかったです。
恋愛小説としても「死」を考える小説としても突き抜けていませんでした。
題名もおもわせぶりなのはいいとして、その真意を探ろうという気持ちがわきませんでした。
一ファンとして、次回作に期待します。
- 価格: 1595 円
- 楽天で詳細を見る