ギスカブログ

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【書評】大治朋子「人を動かすナラティブ」

1 本書の概要

動機についての心理学的考察を述べた本です。

著者は新聞記者。

テロリスト等の動機について、最新の心理学・脳科学的な知見を紹介しています。

なので、本来心理学書のジャンルになるのでしょうけど、ジャーナリスティックな書きぶりなので、一種の科学解説本のようになってます。

取り上げる事件がパレスチナだったり安倍元総理銃撃事件だったりなので、現代社会の病理的な側面も表しています。

キー・ワードは「ナラティブ」。

物語という意味です。

とはいっても小説のようにかっちりしたものだけではありません。

時系列に沿って展開するお話的なもの。

そんな感じです。

このナラティブが人を突き動かす力を持つ。

これが本書で主張されていることです。

2 脳は無秩序に耐えられない

人間の脳は、無秩序に耐えられません。

多くの心理学研究がそのことを示しています。

どんな無秩序なことにも整合性を見出そうとします。

枯れ木を幽霊と見るなんてこの典型です。

人間は意味がないものは放置できないのです。

ありのままに物事を受け取る。

そんなことをいう哲学者や宗教家はいますが、できない相談です。

考えるな、感じろ。

ブルース・リーでしたっけか。

ウィトゲンシュタインも似たようなこといってましたっけ。

意味を見出そうとするのは、脳の主要機能なんでしょう。

もちろん問題は、その意味が妥当化です。

3 ナラティブという概念

物語という意味のナラティブ。

ストーリーのような緻密な展開を持たなくともいいようです。

なのでお話というか「いわく」ぐらいのものも含まれるようです。

これは、情報に意味をつけていくということでしょう。

そして大事なのは、人に信じこませる力をもつというところですね。

自爆テロリストには、自分の命よりも大切な信念がある。

その信念がナラティブだったりするわけです。

人を突き動かすに足る価値を提供する。

そういうものになるのだそうです。

こういうのって、人間社会のそこらじゅうにあるような気がします。

宗教的な行動、特に自分には不利益は行動はたいていそうですし、不可解な消費行動もそう。

一時的な流行だってそうでしょう。

すごく広くとらえると○○しなくちゃならないなんていうのもナラティブだったりしないでしょうか。

ナラティブって自分で見出したりするだけじゃなくて、人に与えられたりすることもあります。

そして大切なのでは、それを信じるってところです。

おそらくは、ナラティブに安心感を覚えるのでしょうね。

意味不明のもの、具体的に固定されていない変数のようなもの。

そういうものに人は安心を感じられないのです。

不定のものに削く脳のリソースがもったいない、というか脳のエネルギーを消費したくないというか。

そういう生理的な背景もありそうな気がします。

わたしたちの脳は、世界をあるがままに受け取るだけの容量がないんです。

ナラティブは、整理し落ち着くための機能でもある。

そして、一番分かりやすい意味づけが、時間に沿った物語なのでしょう。

4 総評

★★★★

4つです。

おもしろかったですし、人間の本質をとらえています。

現在、研究中の事柄でもあるのでしょうが、もう少し理論と実例を精緻に対応したらよかったと思いました。

まあ、機能は機能なので、そこによいも悪いもありません。

それをどう使うかが大切です。

なので、ナラティブという機能、というか人間ってそういうものという理解を踏まえて、自分がどんなナラティブに動かされているかを自覚することが大切でしょう。

ナラティブを使った人に利用されないことが、なにより大事

自己コントロールの手法として、必要な知識だと思いました。