1 本書の概要
池井戸潤さんのスポーツ小説です。
半沢直樹で有名な池井戸さんにはスポーツ小説の傑作がいくつもあります。
「ルーズヴェルト・ゲーム」
「ノーサイド・ゲーム」
これらは企業の実業団が題材でした。
そこではスポーツに加え、池井戸さんが得意な社内政治や企業間のかけひきなどが描かれます。
サラリーマン劇を描くのが得意な池井戸さんの持ち味が生きます。
そういうどろどろした社会に吹く清涼な風を描くのが池井戸作品。
なのにですよ。
出世も利益も関係が薄い、というかない。
ここで池井戸さんの魅力が発揮できるのか。
という疑問を持ちつつ本書を開きました。
結果、杞憂でした。
すごくおもしろかったです。
2 大学連合チーム
主人公は大学連合チーム所属です。
大学連合チームとは何か?
いろいろな大学から選手を集めてつくったチームです。
じゃあドリームチームのようなもの?
残念ながらそうではありません。
箱根駅伝の予選で敗れた大学から個人記録が優れた選手を選抜してつくります。
つまり残念賞みたいなチームです。
本当に速いチームは予選を突破しています。
大学としては出場しないけれども、優れた選手だからかわいそう。
まあ、そういう配慮です。
なので、多くは最下位争いをすることが多い。
つまり期待されていません。
それに順位も記録も正式なものとしては残りません。
結果、選手のモチベーションも高まらない。
そういうチームの主将として、主人公は奮闘するのでした。
3 人間ドラマ
さて、企業内のかけひきがないアマチュア・スポーツを題材としているので、池井戸さんお得意の人間ドラマが描きにくい。
そう述べました。
しかし、さすがは池井戸さん。
日本テレビ、つまり中継社の内部でそこを表現するのでした。
まあでも、いつもの池井戸小説に比べれば薄味です。
しかし、アマチュア・スポーツらしい人間ドラマも取り入れています。
それは走る選手の背景。
箱根を走るという夢をもって大学進学した選手たち。
しかし、家庭の事情、経済的背景が一人一人異なります。
それぞれ事情をもって箱根に臨んでいます。
それを描き出したのでした。
中継でアナウンサーが走っている選手の紹介をする時、少しふれますね。
それを深掘りした感じです。
下巻は箱根駅伝のレースそのものを描いているのですが、このように選手を掘り下げたことで、読者をひきつける展開となっています。
なるほどなあ。
興味深い手法でした。
4 総評
★★★★☆
4つです。
5つでもいいかと思ったのですが、ふと「陸王」がよぎったのです。
「陸王」も長距離を題材とした池井戸小説。
中小企業の奮闘も取り入れたすばらしい展開でした。
それと比較すると、そこまでの完成度ではないかな。
そう思ったのです。
スポーツ選手が生活とか出世とかそういう俗な問題と格闘しながら競技に取り組む。
そういう聖と俗の対立が池井戸スポーツ小説の醍醐味でした。
本作にも少しそういう要素はあるのですが、薄い。
そういう点で「陸王」には届かないかなあという感じです。
純粋にスポーツ小説を描くというのは、マンガなら可能でしょうけど、小説という形式では難しいのかな。
読み手の問題もあるかもしれませんね。
スポーツ観戦のような気持ちで小説を読まないという。
それを考えれば、本作は満足できる小説といえるでしょう。
読んで楽しめるし、読後感も爽やかだし、自信を持って薦められます。
ありがとう池井戸さん。
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