マスク着用の意識変化を行動人類学の観点から述べた本です。
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コロナ禍で日常使用となったマスクをする人間をサルとたとえて、文明批評でもしている本かと思ったのですが、違いました。
マスク着用を人間はどのように受け取るのかという行動学的に考察した本でした。
印象に残ったことを紹介します。
1 衣装としてのマスク
本書におけるマスクとは、感染予防具ではありません。
衣装または衣服としてのマスクです。
どういうことかといいますと、視覚記号としてのマスクということです。
議論はサルから始まります。
サルはマスクをつけていません。
必要がないからです。
しかし、必要がないものをサルがつけている場合もあります。
ヒゲです。
ヒゲはなぜついているのか。
性的魅力をアピールするため、と説明されます。
ライオンのたてがみやクジャクの羽も事例として取り上げられます。
人間については衣服を取り上げます。
なぜ、衣服が必要になったのか。
寒かったからではなく、性器を隠すためというのが筆者の推論です。
そこから隠された部分への想像が働くようになったのだとか。
なので、マスクもその下への想像をかき立て、マスクフェチが現れると筆者はいいます。
2 人類史のある側面の紹介
マスクについての話よりも興味深かったのは、性に関する人類史の考察でした。
狩猟生活の時代は乱婚であったと筆者は述べます。
事例として、イヌイットの近代までの生活を挙げます。
乱婚が問題を生じるようになったのは定住してからだと筆者は述べます。
狩猟時代には人間関係でもめても距離を取りやすかったのだそうです。
しかし農耕生活になり定住するとそうはいかなくなる。
無用のトラブルを避けるために一夫一婦制がとられたのだと考察します。
そして、乱婚的なトラブルを避けるためにパンツが必要になり、性器を隠したと。
こういう展開です。
興味深かったのですが、確証のない議論だと思いました。
3 総評
コロナ禍のマスク使用から、何か有益な心理学的考察があるのかと期待して読んだのですが、そんなものはありませんでした。
本書は、マスクを切り口にした人類学の本で、別にマスクじゃないものを事例として取り上げても、同じような話になったと思います。
衣装・衣服の起源についての考察は興味深かったですが、証拠があるわけでもありません。
衣装の心理的効果については、個人差も大きいです。
筆者もそれがわかっているから、フェチなどを例として挙げたのでしょう。
人類学に興味があるのであれば、楽しめるかもしれません。
強く人に勧めるような本ではないかなあ。