ギスカブログ

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【書評】田中康晃「兼業農家の教科書」

1 本書の概要

兼業農家のハウツー本です。

著者の就農体験記が中心です。

体験に基づいて、後に続くみなさんに助言を与える。

そういう構成になっています。

著者は、サラリーマンから農家に転職した方です。

が、それだけではなく行政書士の仕事もしているのだとか。

なので、兼業農家というわけです。

この行政書士も農業専門なんだそうで、農業への思いの強さをひしひしと感じます。

さて、教科書というほどの知識とはどんなものなのでしょうか。

2 すき間産業

小さい経営体ほど競争はしない。

筆者はそういいます。

つまりは、競争したら負けるでしょう、ということです。

ですので、誰もやっていないところで儲かるところを探す。

これが基本戦略となります。

例えばトマトだとしても、多くの農家が育てているトマトは育てない。

よくあるトマトを育てれば、量と値段の勝負になります。

薄利多売を仕掛けられたら、小規模農家は負けるだけ。

そこは何としても避けなければならない。

二つ目の戦略は、質の向上を目指す。

量では勝てないのだから、質を上げる。

つまりは、高単価のものを売る。

こういうことです。

となれば勉強も独自で進めなければなりません。

JA等の営農指導では確かに作物を育てることができるようになるのですが、品質や味は月並み。

それでは高い値段で売ることはできません。

なので、様々工夫を凝らして質の向上を図る。

これが基本戦略となります。

三つ目は、個人に売る。

つまり、得意先を開拓するということです。

まあ、個人個人とつながれば一番いいのでしょうけれども、特定層の顧客を探し出すということです。

となれば、JAに卸したりスーパーに納品したりでは見つかるものも見つからない。

直売所から始めて、農園直販を目指す。

こういう方法になります。

お分かりの通り、この三つは別々のものではなく、一つの戦略の三つの側面になってます。

まあいわば農家版のブランド作戦みたいなものでしょうか。

とにかく、自分が生きられるすき間を探して探して開拓するって感じです。

3 都市近郊農業

先の戦略を読めば、この方がどんなところで農業をしているか想像がつくと思います。

都市近郊です。

都市近郊の野菜農家の戦略です。

まあ筆者の主たる栽培物はイチゴといちじくです。

都市近郊だからこそ高単価で売れる。

そして、ニッチ作物でも書い手がいる。

こういうことはあると思います。

実際筆者は、これから農業を始めるかたは土地にしばられていないから自由に場所を決められる。

それは利点だ。

こう述べています。

逆に親から資産を受け継いだ農家はこうはいかない。

代わりに農地や道具などの資産があるが。

とこうも述べています。

本書は、これから農家を始める人への教えですから、これはこれでよいでしょう。

都市近郊でない方は、また別の戦略を考えなくてはならないでしょうが。

4 総評

★★★☆☆

農業自体は今後発展が望める産業ではないため、時々こういう本が発行されます。

そして、こういう本を読むのは好きです。

夢がありますからね。

本書を読んで農業を目指そうという方が増えるかは、ちょっと分かりませんが、今始めていてうまくいっていない方の参考になる本だとは思いました。

筆者は、農業も産業であるといっていて、ここは大切だと思いました。

夢とか環境にやさしくとか健康にいいものをとか、そういうことで農業に飛び込んでくる方が多いらしいのです。

そして、現実に打ちのめされると。

農業も仕事なんだから、現実的じゃないとやっていけない面はあると思うのですね。

片手に夢を片手に現実を持って進むのが普通。

そういう意味で、現実的な農業のススメだったように思います。

教科書とまではいきませんが、いい本でした。