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【ネタバレ書評】夢枕獏「陰陽師 烏天狗ノ巻」

1 本作の概要

陰陽師・シリーズ」の最新作です。

安倍晴明の活躍がまだ読める。

それだけでうれしい。

そのくらいのファンです。

今回も十分に楽しめました。

2 人の業

陰陽師が退治するのは物の怪。

ではあるのですが、単なる物の怪で終わらないのが獏さん。

物の怪は、どうして存在するのか。

なぜ生まれたのか。

そういうところまで書き表します。

そこで表れてくるのが、人の業。

人間、だけではなく年を経た動物も入ってきますが、自分ではどうすることができない業というものが存在しています。

よくない。

やめた方がよい。

そうは思っていても、どうしてそうせざるを得ない。

不合理だ。

意味がない。

そうは思っても、やめられない。

そういうものが物の怪になっています。

そしてその業を晴明や道満が解く。

そういう話になっています。

同じ形式の繰り返しだ。

そういう批判はあるでしょうが、そもそも人間の性質がそうなのだから仕方ない。

そういう話でもあります。

ある種、説話を読んでいるような気分になします。

3 印象的なエピソード

今回印象に残ったエピソードは2つ。

金木犀の夜」と「殺生石」です。

金木犀の夜」は、仙人の家に行った話。

生老病死、すべての苦悩から解き放たれたところです。

まあ、お話は仙人話の伝統を踏まえ、1日10年みたいなところを押さえています。

気になったのはそこではなく、人間の欲の部分。

すべての欲が満たされているにもかかわらす、主人公はここを出て行きたくなるのです。

なぜか。

自分が一生かけたものへの思いが消えなかったから。

この人物にとっては和歌づくりです。

それで現世に帰ってくるのですが、合理性のかけらもありません。

しかし、それが人間。

それがよく描かれていました。

もう一つの「殺生石」は、伝奇物語の王道。

物の怪退治です。

ただ、退治するのは安倍晴明ではありません。

蘆屋道満です。

陰陽師」のダーク・ヒーローです。

作者は、道満が好きなんですよね。

それが強く表れていました。

で、印象に残った点は物の怪退治の部分ではなく、道満の心。

欲が人一倍あったがために、今は何の欲も残っていない。

そういうレベルに到達している道満です。

これ、一面ほんとうなんでしょうけど、別の面から見るとどうなのか。

ほんとうに欲がなかったら、退治した物の怪を式神にしないと思うのですが。

まあ、江戸時代まで生きた陰陽師ですから、欲はあったんでしょうけど。

4 総評

★★★★

星4つです。

今回も楽しめました。

後書きで、獏さん72歳であることを明かしています。

それで連載12本。

すごいと感心しつつも、いつまで作品を楽しめるのか。

健康に気を付けてご活躍ください。