1 本書の概要
イーロン・マスクの伝記です。
上下2巻の大著です。
存命の方の伝記にしては長い。
まあ、欧米のハードカバーを邦訳すると大体このくらいにはなるので、向こうでは当たり前の長さなのかもしれません。
日本語は、情報の所有量でハンデがあるのかな。
それはさておき、長さを感じさせないくらいテンポよく読むことができました。
伝記といえば偉人伝。
先人を人生の参考にする。
そういうインセンティブで読む人が多いと思います。
これはそういう本じゃありません。
イーロン・マスクがどういう人間か。
そういうことに焦点を当てた本です。
参考になる部分もあるでしょうが、そうでない部分も普通に書いてある。
おもしろい本でした。
2 発達障害とDV
マスク氏の背景として語られるのが、発達障害とDVです。
マスク氏は正式な医療診断はないそうですが、他人への共感性に欠けると記述されていました。
これは、自閉症スペクトラムの特徴の一つです。
この症候群は、正式呼称がけっこう変わるので、アスペとかいろいろいわれますが、今はASDと略称されることが多いと思います。
このことが決断力の速さ強さにつながることも多いのですが、他人から誤解されることも多いのです。
経営者でよかったですね。
会社員、つまり「ムラ社会」で生きるには難しかったでしょう。
もう一つが、父親からのDV。
今なら児童虐待なのでしょうが、70年代の南アフリカですので、さほど問題にはならなかった。
ですが、性格形成には大きく影響したでしょうね。
このことは多くの症例があげられています。
しかし、マスク氏は確かに悪影響を受けているにも関わらず、家族愛をもった大人に成長しています。
母親その他に感謝といったところでしょうか。
3 マスク氏の夢
マスク氏の経済的成功の第一歩は、ペイパル(決済サービス)を成功させたことです。
普通の起業家なら、これは守るかあるいは発展させるかという方向に進むでしょう。
マスク氏は、自分の夢の実現に邁進します。
夢とは何か。
SF的な未来の実現です。
宇宙旅行、電気自動車、AIロボット。
そういうところです。
テスラ(電気自動車)の成功で有名ですが、テスラよりも前から取り組んでいたのがスペースXです。
人工衛星の打ち上げ事業。
これを民間でやる。
日本だとホリエモンがやってますけど、マスク氏はこれを成功させて打ち上げ契約をアメリカと結んでいるのですね。
すごいなあ。
スペースシャトル計画の終了とともに、アメリカは宇宙に衛星を送る手段をなくしました。
そこで民間に頼っている。
そういう追い風があるにしてもすごい。
しかも3度も失敗しているのにあきらめなかったのもすごい。
鉄の意志ですね。
火星到達というのが夢というのもおもしろい。
日本の富豪が宇宙に目を向けているのも、マスク氏の影響があるのかもしれません。
テスラもおもしろい。
電気自動車は、固有の弱点が多くて普及には課題しかないというのが、80年代以降の常識です。
いくらエコっていってもね。
バッテリーの問題が解決しないよね。
とまあこんな感じです。
日産のリーフって普及しなかったじゃないですか。
それが事実なんですね。
ところが、マスク氏はまたもや鉄の意志でこれを推進します。
高級車から売り始めるという逆転の方法で成功される。
すごいなあ。
電気自動車の今後がどうなるかは予断を許しませんが、テスラの成功は自動車業界をゆるがしたことはまちがいありません。
3 経営スタイル
マスク氏の経営スタイルは昭和熱血型です。
「24時間戦えますか」
2020年代にこれをそのまんまやってます。
そして鬼のようなコストカッター。
体脂肪率10%台の会社経営。
こんな感じです。
これは付き合う人は大変ですね。
スティーブ・ジョブズも人間的には問題があったと死後話されてますけど、まあマスク氏はそこまではひどくないようですが、これは大変です。
共同経営者が入れ替わるのも仕方ない。
そんな感じですね。
その一端はX(旧ツイッター)の利用者は、ある程度感じていると思います。
Xは以前はリベラルな感じでしたけど、今はちがっています。
ただ、一般ユーザーとしてなんですが、わたし個人は不便になった感じはしません。
ちょっと見ただけで「おすすめ」がそれに似た感じのポストで埋まるのは閉口しますけど、それは以前からのことですしね。
まあ、経済的成功者にワークライフバランスはない。
ないというか、観点として存在しない。
それはまちがいないようです。
それと冒険心ですね。
世界一の金持ちになったら守りに入ると思うのですが、まったくそんなことはありません。
そもそもツイッターなんて買う必要ないじゃない、そんな経営不振のSNS。
と考えるのが普通だと思うのですが。
マスク氏はそうじゃないんです。
4 総論
★★★★★
激押しです。
まあ取材協力していただいて書いたんで、マスク氏に悪いことは書いてない本なんだと思いますけど、とにかくおもしろかったです。
マスク氏、最後に破産しても日本人ならファンになるんじゃないかなあ。
判官贔屓で。
でも、まあ、いわゆる「富士山」です。
遠くで見る分にはきれい。
そういう人物であることはまちがいありません。
そして、世界一の大金持ちになりたい人が参考にする人でもない。
それは確かです。