1 本書の概要
詐欺師たちの犯罪小説です。
本書をどこで知ったかというと、YouTuberの不動産Gメンさんの動画でした。
作者とGメンさんが対談していたのですね。
その話が興味深かったので、手に取ってみたのです。
本書は犯罪者視点の小説ですので、読後の爽快感のようなものはありません。
犯罪の手口と犯罪者の内面がこれでもかと描かれています。
まあ詐欺師ですし、アルセーヌ・ルパンや藤枝梅庵のようにはいかないでしょう。
後味が悪いことを承知で読んでください。
そういうスタイルの作品です。
2 地面師
地面師とは、どういう詐欺師か?
一言でいえば、他人の土地を売ってしまう人たちです。
そんなことできるの?
不動産の売買って、専門家が関わるし、役所に出す書類も作るし、現金じゃなく銀行振込だから口座に証拠残るし。
まあ、そういう疑問が次から次へと出るでしょう。
しかし、実際にあることなんですね。
2017年に積水ハウスが、55億5千万円だましとられてるんですね。
この手の詐欺師に。
なので、実際にあるんです。
おそろしい。
それで、本人確認書類やら登記書類やらを偽造して臨むんです。
本作では、地主のニセ者を用意しています。
干支とかそういう本人確認の基本的情報を暗記させて対面させるわけです。
いやあ、運転免許証とか司法書士の本人確認文書があったらだまされかねないですね。
まあ、買う方にも拙速しなくちゃいけない事情とかがあった場合でしょうけど。
よくよく考えてみると、高度でもなく古典的な詐欺なんですが、それだけに手口が洗練されているともいえるわけです。
振り込まれたお金の洗浄の方が難しそうではありますけど。
3 詐欺師の心理
だまされる方を純真、だます方を狡猾。
本書はそのように描写しています。
特に主人公がグループに入ったばかりの詐欺では、そのように描かれています。
また、主人公自体も詐欺によって家庭が破壊された人間です。
こういうことで、詐欺師の非人間性を強調しています。
最後まで逃げ切ったリーダー格には、もはや人間性がなくなって別の価値観で生きているような感じです。
サイコパスですね。
まあサイコパスは生まれつきなんだそうで、動機がどうこうじゃないそうですけど。
本書は、そういう人間の嫌な部分を多く描写しています。
先にいった爽快感のなさというものは、こういうところに起因しています。
でも、ふと思ったのですよ。
案外、仕事ってそういう面がありますよね。
ものを売る時に、いい品物だから売るっていうのはいいですよ。
でも、欠点とかそういうものは隠して売ることは、けっこう日常的なんじゃないでしょうか。
売る品物が決まっていて、ライバルよりも劣るものを、あるいは高いものを、そうとは告げずに売る。
こういうことって、商売にはつきもののような気がします。
もちろん、犯罪と商売は別物ですけど。
どこかで、程度の問題と捉えている自分がいて、自分も毒されているんじゃないかと心配になりました。
こんな振り返りをしながら、自己チェックしないと倫理観が保てないのかもしれませんね、人間って。
4 総評
★★★☆☆
お薦め度は、星3つかなあ。
こういう世界があるという知識を得るにはいいと思うのです。
「ゴルゴ13で国際情勢を学ぶんじゃない!!」
という批判を受けるのと同じレベルかもしれませんが。
ストーリーもよく練られているし、一気に読み終えることができるので退屈感もありません。
それでもやっぱり読後の爽快感がないんですね。
どうしてもリーダー格に共感できませんし。
そういう意味の評価です。
ただ、詐欺師たちが失敗しそうになったとき、彼らを応援する自分が現れて、ちょっとしたストックホルム症候群になりかけました。
そういう没入感はあります。
スリル感が味わいたい人にはお薦めです。
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