1 「図書委員シリーズ」の1巻
高校生探偵の日常系推理ものの第1巻です。
![本と鍵の季節 (集英社文庫(日本)) [ 米澤 穂信 ] 本と鍵の季節 (集英社文庫(日本)) [ 米澤 穂信 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/2564/9784087442564_1_5.jpg?_ex=128x128)
- 価格: 792 円
- 楽天で詳細を見る
先日、シリーズものとは知らずに第2巻から読み始めました。
男子高校生2人による推理ものなのですが、登場人物の性格やお互いの関係などに「くせの強さ」を感じました。
それで第1巻を読めば、違和感も多少薄らぐのかなあと思い読み始めたのです。
あまり変わらなかったというのが結論です。
どこかほの暗さを感じるような登場人物たちでした。
本作は短篇集で、それぞれの「犯人」の動機も暗く嫌な感じがするものばかりでした。
2 「犯行」の動機
短編は6作なのですが、6作目は5作目の解答篇なので、実質5作です。
日常系なので「犯行」といえるほどの犯罪が行われたわけではありません。
が、それぞれの「事件」の動機を見ていくと、こんな感じになります。
1作目「913」の動機は、遺産の強奪。
2作目「ロックオンロッカー」の動機は、社内泥棒へのおとり捜査。
3作目「金曜に彼は何をしたのか」の動機は、離婚した父への見舞い。
4作目「ない本」の動機は、自殺者の遺書隠し。
5作目「昔話を聞かせておくれよ」の動機は、父が盗んだお金の探索。
こう並べてみると、同じ作者の「古典部シリーズ」と比べて、「犯人」の身勝手さが強まっているようです。
3作目の動機には優しさを感じますが、これにどんでん返しがあります。
この話は「犯人」と疑われた人のアリバイを証明する話なんですが、真犯人は探偵役の1人でした。
つまり、初めから無実を知っていて、それをふせているという構図です。
この部分、どうも人間の暗い面を表現している感じがします。
3 解決後
それぞれの話で真相は明かされ、謎は解けるのですが、どうもその後が大丈夫かと心配になる話が多いのです。
1作目は金庫を開ける話で、開くには開くんですが、開けようとした人たちの嫌な動機も白日の下にさらします。
その人たちとこれからどう関わっていくのでしょう。
2作目は泥棒は捕まるのですが、探偵2人は捕り物をおもしいことと見物します。
まあ第3者なので、いいといえばいいのですが趣味の悪さを感じます。
3作目は、後輩の兄の無実をはらすのですが、真犯人は自分なのに名乗り出ることはありません。
4作目は、遺書を押しつけられた先輩が自分が関わらない形で遺書を公開しようとしたのに、それを明らかにしてしまいました。
5作目は、友人の父が犯罪者であることを明白にしました。
推理ものというのは、真実を明らかにすることで、関係者みんなすっきりと明日に向かうという結末が多いのです。
本作はそうではありません。
真実を明らかにすることで、後味の悪さが必ず残るようになっています。
人間なんてそんなもの、世の中なんてそんなもの。
ともいえるのですが、爽快感のなさがすごい。
暗さの中に、人間の真理でもあればいいのですが、どちらかというと人間の嫌な部分が明らかになっていく感じがするのです。
露悪的とでもいいますか。
ちょっと好みではありません。
3 総評
推理ものの短篇集となると、謎のアイデア勝負というところがあります。
本作でも、謎のアイデアは凝っていまして、どれも読み応えはあります。
推理ものとしては、おもしろいといえるでしょう。
しかし、前述のように「露悪的」なところがあって、どうも読後感がよくないのです。
ミステリー好きにはお薦めと思います。
しかし、繰り返しになりますが自分の好みではありませんでした。
第2巻読後の感じとそう変わりません。
こういうタイプの小説だったのですね。