1 本作の印象
宮崎駿さんの最新作「君たちはどう生きるか」を見てきました。
最近のジブリ作といえば、起承転結がよくわからないというか、構成が破綻しているのではないかというくらい自由な物語が提示されているという印象があります。
それでも光るところがありました。
が、本作は構成破綻グループの極北です。
正直にいえば、何の話をされているのかわかりませんでした。
レベルでいうと、宮沢賢治の「やまなし」くらい意味がわからない。
いや、ちがいます。
「やまなし」は象徴がわからないだけで、話の設定や構成はわかります。
本作は、それすらもわからない。
絵はいつものジブリ絵できれいでした。
動きも「未来少年コナン」以降ジブリ伝統の大げさな動きでおもしろかったですね。
しかし、肝心のストーリーが???。
何だかわからないけれど、何か意味や意義や価値がある作品というものは分析したくなるものです。
しかし、本作にはそんな気持ちがまったくもてない。
そんな感じでした。
2 舞台となる屋敷のこと
設定上のなぞがたくさんあります。
一例として疎開先の屋敷です。
この屋敷、太平洋戦争のために主人公一家が疎開してきたところです。
本作の舞台ですね。
どうやら母親の実家らしいのです。
何ですが。婿であるはずの父親が旦那様と呼ばれています。
父親は軍需工場を経営していて裕福な人です。
どうやらこの実家、兄や弟が継いでいる風でもないので、家娘の夫に敬意を表して旦那様と呼んでいるだけなのかもしれません。
が相当な地主っぽいので、婿があそこまで主人面というのもどうなのでしょう。
まあいいです。
この父親、少し変わった結婚をしています。
父親の後妻は、先妻の妹。
戦前、独り者となった際に連れの弟や妹と結婚するということは、戦前ままあったことなのでいいでしょう。
それにしても、妊娠させるまでの期間が短か過ぎると思いましたが。
この父親、姉妹どちらの夫なので、婿なのに主人のように振る舞っているのかもしれません。
わからないのは、敷地内にある謎の塔は大叔父が作ったものだと父が語ることです。
何で知ってるんだよ。
そもそも姻族だろう、大叔父は。
なんかもう、この疎開先の大屋敷が夫の家なのか妻の家なのかわからなくなりました。
主人公の母親(つまり主人の先妻)が小さい頃1年くらい神隠しにあったと下女がいっているので、母親の実家なんでしょうけどね。
さらにこの屋敷、異世界につながる不思議な塔があるんです。
主人公が最初に塔に行った時は、案外簡単に行けました。
アオサギの池の近くな感じでした。
けど、2度目に塔に行く時は、もう森を越えて行く感じの冒険になってます。
どんだけ広いんだよ?
東京ドーム何個分?
って感じですね。
この屋敷、どんな感じにできてるんでしょうね。
主人公たちは洋館風の離れに住んでるんですが。
屋敷よりも不思議なこといっぱいあるだろ!
そんな本質的じゃないこといつまで書いてんだ!!
と見た方から指摘されそうです。
そりゃその通りなんですが、日常パートの舞台である屋敷からもう変なんですよ。
1つ疑問を感じると全然解決できない。
そんな感じの例として挙げたと思ってください。
3 異世界と世界の命運
本作、途中までは戦禍ものみたいな雰囲気なんですが、途中からハイ・ファンタジーになります。
このファンタジー、義理の母を訪ねて三千里なんですけど、途中で嫌みなアオサギとかこの世で命にかわるふわふわした生命体とか、しゃべったりおそったりするペリカンとか、そんなのを乗り越えて進みます。
まあアオサギとは友達になるんですが。
乗り越えるのはいいんですけど、その一つ一つの出来事に物語構成上のどんな役割があるのかまったくわかりません。
とにかく義理の母を探すんです。
ファイヤー系超能力を使う少女の力を借りてなんとか会うのですが、ここで義理の母親に帰郷を拒否されます。
拒否する理由がわからない。
もっというと義理の母が自らの意思で、このおとぎ話の世界にやってきたかもわからない。
ちなみにですね、現実社会で義理の母と主人公、そんなに仲悪くなかったんですけどね。
母親として認めていたかどうかは別として。
そこからさらに物語は進み、このファンタジー・ワールドの中心にたどり着きます。
そこは主人公の母の大叔父がですね、この世界のバランスをとっていました。
積み木で。
で、この仕事を継いでほしいと主人公に懇願するのです。
なんかとても大切な仕事みたいです。
どうもこれこそが主人公を異世界に呼び込んだ理由なようです。
だったら、もっと簡単に大叔父様のところに招待すればいいのでは?
様々な冒険は必要だったの?
そもそもアオサギ君はその役割を担っていたのではないの?
などと考えますが、意味がないのはここだけではないので考察しても仕方ありません。
さて、世界を支える積み木ですが大変なことになります。
この世界の生命線ともいうべき積み木をですね、その世界の住人であるインコの王様が壊してしまうのです。
何やってんの!
ああ、世界崩壊。
万事休すです
なんですけど、無事に主人公たちは現実に逃げ帰ります。
別に世界は崩壊しません。
バランスも崩れていません。
2年後に東京に戻れるくらい安定してました。
大叔父の仕事って、なんなのでしょう。
必要なかったのでしょうか。
後継者も必要なかったのかも知れませんね。
もう大分ネタバレしているのですが、たぶん映画見てない人はわたしが何いってるかわからないと思います。
大丈夫です。
見たわたしもわかりません。
ポルナレフですよ。
「何を言ってるのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ…もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…」
何を見せられたのかわかりません。
支離滅裂とか混沌とか、分裂症的とかそんなチャチなもんじゃあ断じてありません。
もっとおそろしいのかしょうもないのかはわかりませんが、そんなものの片鱗を味わいました。
4 総評
あげようと思うとすぐに思いつくくらいシーンの意味、役割がわからんのがいっぱいあるんですよ。
一つ挙げると主人公が落ちてきた「地獄」でペリカンに押し込まれた墓所とかね。
何だったんでしょう。
その後の物語にまったくかかわりありませんでしたし。
もうジブリファンには敬意をもちつつ、そして「風の谷のナウシカ」のような名作を作ってきた宮崎駿さんを尊敬しつつもいってしまいます。
駄作です。
前衛的で難解な作品というジャンルでもなさそうですし、それでもおもしろければいいんですが、主人公も感情移入というか共感できるタイプでもありませんしね。
しかも、タイトルですよ。
この映画見て、人生について考える人がいたら、その人は何を見ても人生について考えるでしょうね。
ほんと、爪切りを見ても消毒用アルコールを見ても、人生の暗喩を感じ取るんじゃないでしょうか。
つまり、このタイトルに意味が感じられないんです。
映画中の主人公を始め主要キャラクターがどんな人生的決断をしたというのでしょう?
現実に戻ると空襲で亡くなってしまう母親が、それをわかっていながら戻ったこと?
でもそれって、2時間かけて語った物語の中心テーマとは思えないんですが。
わたしの文章を読んで「なんだこれ」って思った方がいたら、ぜひ本作を鑑賞することを薦めます。
そして、わたしに新たな解釈を教えていただけたらと思います。
でも現段階、やっぱり本作は駄作だと思うのですね。
どうしても。