1 「アキラとあきら」の概要
今回は主人公が2人。
どちらも「あきら」という名前です。
ちなみに、このカタカナと平仮名のどちらがどちらなのかはわかりません。
それはさておき、生まれ育った環境が異なる2人です。
1人山崎瑛は、倒産した町工場の長男。
苦学して大学を東大を卒業します。
もう1人の階堂彬は海運会社の長男。
資産家の息子ですが、面倒くさい親族を抱えています。
こちらも順当に東大を卒業します。
2人はどちらも産業中央銀行に就職。
そう、半沢直樹が就職したあの銀行ですね。
将来を期待されながら、それぞれバンカーとして歩み始めました。
2 親族経営の問題
この2人がどこで絡み合うかというと階堂さんの実家の救済です。
階堂さんの実家、堅実な経営をしていたのですが、社長である父が亡くなります。
そこから話がおかしくなっていきました。
叔父がファミリー企業を経営していたのですが、そのどちらも経営があぶない。
堅実に経営すれば大丈夫だったのでしょうが、実家を見返そうと思い危ない橋を渡ります。
伊豆のリゾート開発に乗り出します。
話を持ってきたのがバブル紳士。
まあ、高く売り抜けようっていう輩ですね。
で、リゾートホテルを経営し始めるのですが、これがバブル崩壊と相まって最初からつまづきます。
それを実家の海運会社に負債をつけ回すのですね。
おりしも、彬さんの弟が社長につきました。
これでまあ口車にのせて連帯保証をつけるんです。
弟は心を病んで彬さんに会社をゆだねます。
そこを銀行員の瑛さんが助けるっていう筋書きですね。
それで、この実家の海運会社なんですが、叔父2人も兄に対する対抗心、彬の弟も兄に対する対抗心で、経営を曲げていくんです。
親族経営だから一枚岩とは限らないんですね。
社会や経済は理性的に判断して行動するのが一番なんだけど、みんな感情で判断するからうまくいかないんだ。
ということを堀江貴文さんが言ってましたが、正にその通り。
いや、会社経営だけじゃなくて人間関係って全部そうなんじゃないかと思うんですね。
感情があるから助かっている部分もあるし、人生の楽しみもあるのはわかります。
わかりますが、悲劇の原因も感情にあることが多いです。
わかっていてもやめられないのが人間。
といってしまえばそれまでなんですが。
3 瑛さんの志
実家が町工場だった瑛さんは、中小の会社を助けるために銀行員になりました。
そういう志がいろいろなエピソードに現れていて、とてもよかったです。
物語の清涼剤というべき役割です。
そして彬さんの会社を救うのも瑛さんです。
いやあ、いい展開でした。
エピローグでわかったんですが、瑛さん高校の同級生と結婚していました。
わずかな期間だけ同級生だった人です。
彼女も父の会社の都合で「いじめ」にあったり転校を繰り返したりした人です。
どこで再会したんでしょうか。
その話も読みたかったなあ。
池井戸潤さんのお話は、お金にかかわるお話が多くて、だから殺伐とするところが必ずあるんですけど、なんか人間性で救われるところがあります。
本作もそうでした。
ただ、彬と瑛だったんですけど、成人後は瑛さんのお話は少なくて、残念でした。
庶民のわたしは、庶民の話がもっと読みたかった。
そう思います。
4 総評
本作もとてもいいお話でした。
会社経営の話になると資金の話が不可欠で、だからこそ銀行員がかかわってきます。
久しぶりに銀行員が主役の話だったのですが、志がある話でよかったと思いました。
池井戸作品では、銀行員が主役じゃない話、「陸王」とか「ハヤブサ消防団」とかの方がおもしろかったんですけど、これは別。
読後の満足感がハンパないです。
未読の方に、ぜひお薦めします。