1 本作の概要
東野圭吾さんの脅迫犯罪サスペンスです。
舞台はスキー場。
営業中のスキー場に爆薬を設置した。
爆破されたくなければ、「身代金」を支払え。
こういう設定です。
「ガリレオ・シリーズ」のようなトリックがあるわけではありません。
スキー場関係者の対応が中心のお話です。
緊迫した調子で最後まで読み進めさせるのは、さすが東野さんといったところ。
テンポよく読み進めることができるお話です。
2 スキー場経営
舞台の背景としてスキー場経営の困難さがあります。
スキー場が華やかだったのは、80年代後半。
バブルの後半といったところです。
ロケーションのすばらしさ。
手の届く高級感。
非日常性。
恋愛の可能性。
こういったところが大衆を惹きつけていました。
わたしですら、スキー場に足を運んだものです。
しかし、スキーには大きな障害があります。
技術。
簡単に上達なんかしないんですね。
確かにゲレンデを自由自在に滑走できたらおもしろいでしょう。
でも、そこまで上達するには努力と時間が必要です。
多くの大衆は、あきらめてしまいます。
結果、リピーターが少なくなる。
スノー・ボードが流行っても、この構図は変わりません。
現在、経営が苦しいスキー場が多数となってます。
3 スキー場爆破
スキー場そのものを人質にとって脅迫する。
ここが本作の目玉です。
よく考えれば、多数が利用する施設を乗っ取って脅迫するというのは、そんなに珍しい設定ではありません。
「ダイ・ハード・シリーズ」もそうですし、「ホワイト・アウト」もそうかな。
本作では、雪の下という簡単には探せない場所に設置しているところが目新しさといえるでしょう。
金属探知機とかで調べれば、爆破されるかもしれませんし。
犯人に知られることなく爆弾を撤去するということが困難です。
設定の妙ですね。
現金の受け渡し場所がスキー場というのもおもしろい。
犯人の卓越した滑走技能で逃げ切ってしまう。
こういうところば、スキー好きにはたまらないでしょうね。
4 犯人の設定
冒頭からスキー場に「恨み」を持つであろう人物が登場します。
この人物、表面上はよい人なんですが、動機としては十分すぎる恨みを持っています。
ミステリー好きの読者は(は、はあ)といった感じでしょう。
あて馬です。
この人が、探偵役を惑わす役回りだ。
そう感じるでしょうね。
とすれば、この人物以上に説得力のある犯人が必要になります。
そして、その動機は「うらみ」ではない。
となれば犯人は「巨悪」でしょう。
これ以上、説得力のある犯人はいません。
今さら天才的犯罪者とか金の亡者とかでは、スカされ感が増すだけです。
それで現れたのがスキー場上層部。
犯罪的経営が背景にあったわけです。
まあ、犯人の要求に唯々諾々と応じる経営陣がうさんくさかったのは冒頭からですので、きれいに布石は打っていたわけです。
これを陳腐に感じさせないのは、東野さんの筆力でしょう。
5 総評
★★★★☆
星4つです。
すごくよくできたエンターテインメント小説ですね。
登場人物が共感できるのもいい。
保身のために行動しないので「正義の味方」感があります。
人間って、自分は自分のために行動するんですけど、他人には利他的行動を求めるんだなあ、と作品と関係ないことを思ったりもしますが。
さておき。
解決のすっきり感も十分です。
ウインター・スポーツ好きには、特にはまるのではないでしょうか。