1 はじめに
伊坂幸太郎さんのミステリーです。
このお話、以前映画化されています。
映画を見てはいないのですが、ロケ現場の本屋はよく知っていました。
アパートから一番近い本屋でした。
それで、親しみを持っていたのですが、つい公開期間を逃してしまいました。
少し残念です。
さて、本屋がロケ現場。
そうなんです。
本屋に関わるミステリーなのです。
どういうお話かというと。
2 本書のミステリー
進学して仙台に来た主人公は、アパートの隣人に強盗の手伝いを頼まれます。
本屋を襲い、広辞苑を奪う。
そして、日本語を勉強しているアジア人に広辞苑を贈る。
これが強盗の全貌です。
主人公が頼まれたことは、裏口を守ること。
店員が逃げ出さないようにするためとのことでした。
強盗は成功し、辞書を奪います。
この強盗はいったい何だったのか?
この事件の真相を解き明かすことが、本書の柱です。
3 過去と現在の同時進行
本書は、現在と2年前が行き来する構成となっています。
どうしてこんなめんどくさいことになっているか?
それは、2年前の出来事が現在の事件の動機となっているからです。
読者にはそのことは知らされず、淡々と交互に物語は述べられていきます。
しかも、過去と現在の語り手はちがいます。
ほぼ登場人物は同じなのに、それぞれの語り手は別の話には登場しません。
また、過去の登場人物で現在には現れない人物もいます。
これらが謎を解くポイントの一つになっています。
4 叙述トリック
重大なネタバレですが、本書には叙述トリックが使われています。
叙述トリックとは何か?
読者のミスリードを誘うような記述によって、真相をあいまいにするトリックのことです。
つまり、文章によるだまし絵のようなものです。
正確にいえば、本書では作者が仕掛けているというものではなく、犯人が主人公をだましているというようなものです。
作者は、このトリックを使っていることから、本作品は映像には向かないと考えていたそうです。
そうでしょうね。
そのトリックとは、こんなものでした。
5 本書のトリック
現在のある人物が2年前のある人物になりすましている。
これがそのトリックです。
なぜそんなことが必要なのでしょう。
おそらくは、主人公に強盗を手伝わせるため、と思われます。
それ以外に、別人物になりすます必要はないんだよなあ。
というか、主人公が手伝わなくとも強盗は成立するんじゃないかとも思いました。
犯罪に必要不可欠であったかはわかりません。
ただし、本屋を襲って辞書を盗む、という意味がわからない犯罪をミステリーとして提示するためには必要なのでしょうが。
犯人のこだわりの部分でもあります。
6 総評
おもしろい作品であることはまちがいありません。
ただし、扱っている犯罪の内容が気分のよいものではなかったので、読後の爽快感はありませんでした。
事件とは別に、家族から大学をやめるよう話された主人公はどうなったのでしょうか。
いろいろとその後が気になりました。
また、少し変わった人物が多く出てくる小説でもあります。
周りがこんな人ばかりだと、気は休まらないだろうなあ。
そう思うくらいなので、共感できる登場人物はいませんでした。
構成が見事なミステリーを読みたい。
そういう方に、お薦めできる1冊です。