1 本作の概要
病弱の少女の願いをかなえる物語です。
本作は、3つの要素から成立しています。
1つは、薄幸の少女を助けるという要素。
2つめは、青春バンドものという要素。
3つめは、タイムリープものであるという要素。
それぞれに優れた先行作品があります。
それらを超えた作品であるかどうか。
ということは読んで楽しめればよい人にはどうでもよいのですが、わたしはどうしてもそれらの作品と比較してしまうのです。
先行作品の印象があまりに強かったためだと思います。
これら3つの要素に沿って、本作を語っていきたいと思います。
2 薄幸の少女救済
このジャンルの金字塔的な作品に「イリヤの空、UFOの夏」があります。
作者の秋山瑞人さんは、あるインタビューでこのようはことを話していました。
こういう物語というのは、どう少女に幸せに死んでもらうかということが大事で…。
うろ覚えなので、まちがっていたらごめんなさい。
しかし、こういう考えを作者が持っているということは、いわれてみれば当たり前ですが、衝撃でした。
小説の場合は、少女がどうなるか読者はハラハラしながら読んでいきます。
作者は、結末を決めていて、その過程を工夫していく。
なんともいえない気分になります。
ところで、本作はこれを一歩進めているところがあります。
主人公がタイムリープしているため、ヒロインの結末を知っているのです。
なので、作者ではなく主人公が幸せな最後を迎えさせるために奮闘する。
こういう構図になっているのです。
よく主人公はこの境遇に耐えられるなあとか、そもそもバンドではなく長生きしてもらう方向に奮闘できないのかなあ、などと考えさせられます。
幸せとは何かを主人公なりに考えた結論なのでしょうけれども。
3 青春バンド
これも様々な先行作品があります。
わたしが本作を読んで思い出したのはこれでした。
文化祭で演奏することを目的に、軽音楽に反対する様々な障害を乗り越えるというところが共通点を感じました。
バンドものが活字で表現されることは、やっぱり難しいです。
音楽が響いてこない、というか文章から想像する音楽が読者それぞれで異なるからです。
スポーツものなら文章でもなんとかなるのですが、音楽ものはやっぱり難しい。
しかしそうであっても、目的を同じくする少人数が奮闘努力するという点で、青春群像が描けますし、なによりクライマックスが大観衆の前での演奏という見栄えのよいものが用意できますので、題材としての魅力はあります。
読んでいて爽快感がありますので。
本作も、みんなで何かやるんだったら何でもよかったのでしょうけれども、バンドにしたことで、里程がはっきりしたという効果はあったと思います。
4 タイム・リープもの
タイム・リープものは、ゲームから始まったように感じます。
多様な分岐を作りたくとも、リソースが限られていた時代、同じルートを繰り返すことに意味を持たせるための工夫だった。
そんな風に思います。
しかし、その限られた手法がかえっておもしろさを増す。
少し違った繰り返しが、大きな楽しみを作る。
そういうことがありました。
わたしが名作だと思うのはこれです。
これはノベライズなので、ほんとうはアニメを見た方がいいとは思うのですが。
暁美ほむらという人物が、現状を打開しようと何度もタイム・リープを繰り返します。
なんとも切ない感じします。
本作でも、よくない結末を変えようと主人公は取り組みますが、その変えるべき点は1点だけ。
決定的な点といえるのですが、ほんとにそこだけなのかなあという気持ちはぬぐえませんでした。
そして、自分の気持ち一つで変えることができると思っていた点もどうかなあと感じていました。
まあその点については、作中でもふれてはいるのですが。
5 総評
魅力ある要素を組み合わせて整えた作品。
そうもいえるのですが、読後感は爽快で青春ものとしていいなあと思いました。
ただ、要素の例で挙げた3作品に比べると、重厚感がないという感じはします。
幸せな人生とは。
人を幸せにするとは。
こういうところをもっと掘り下げていたらなあと思いました。
これらのジャンルの入門編としては、かなりよい作品だとは感じましたけれど。