ギスカブログ

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【ネタバレ書評】伊坂幸太郎「グラスホッパー」

1  本作の概要

妻の復讐を企てる主人公と3人の殺し屋の話です。

といっても、妻は殺し屋に殺されたわけではありません。

復讐すべき相手は別にいたのです。

しかし、作品冒頭でこの復讐すべき相手は死んでしまいました。

主人公の復讐は失敗です。

復讐相手は殺し屋に殺されてしまったのです。

この復讐相手を殺した殺し屋を巡って、世にも奇妙な冒険が始まったのでした。

2 3人の殺し屋

復讐すべき相手を殺したのは、押し屋と呼ばれる殺し屋です。

車や列車の前に相手を押し出し、事故を装って殺します。

あまりにも自然な技術で行われるので、事故を疑うものはありません。

いわば、伝説のようにうわさが広がっている殺し屋です。

2人めの殺し屋は、鯨と呼ばれています。

2m近い巨体からついた名前のようです。

鯨は自殺させ屋です。

相手を自殺させる殺し屋なのです。

鯨が相手と語り出すと、秘められた自殺願望が顕在化し自ら命を絶ってしまうのです。

まことに不思議な能力。

その反動なのでしょうか。

鯨の周囲には、自分が自殺させた相手が時々現れ、鯨に話し掛けます。

鯨自身はそれは自分の内面が作り出したものと認識しています。

していますが、その死人と対話を楽しむ様子も見られます。

不思議な殺し屋です。

3人めは、蝉と呼ばれるナイフ使いです。

こちらは抜群のナイフ技術で人を殺めます。

倫理観に欠けており、殺人の理由など難しいことは考えません。

考えてもわからないことは考えないという感じです。

殺人の営業をしているコンビからの依頼を受けて仕事をする。

そういう感じの男です。

蝉というのは、しゃべりがうるさいからつけられたのだとか。

3 押し屋と主人公

押し屋が主人公の復讐相手を殺したことで、3人の殺し屋の運命がからみ始めます。

殺された復讐相手、実はある殺人グループの社長の息子でした。

なので、その殺人グループは必死で押し屋を探し出そうとします。

主人公は、復讐相手の殺人現場から逃げる男の追いかけます。

しかし、主人公はその逃げる相手が押したところを見たわけではありません。

なので、その男が押し屋かどうかを確かめようとします。

主人公は押し屋に話し掛け、というか押し屋の自宅に上がり込んで話すのですが、この会話がとんちんかんなくらいかみ合いません。

その男の家族とも会話をするのですが、これも翻弄されてばかりです。

おそらく押し屋であろうけれども、決定的な証拠はないまま話は進んでいきます。

4 鯨と蝉

鯨と蝉は奇妙なかかわりを持ちます。

鯨が自殺させた相手が蝉を雇っていたのです。

もちろん鯨を殺すために。

二人は殺し合いをしなければならなくなりました。

いよいよ対決。

能力が高かったのは鯨。

蝉は鯨の奇妙な能力に屈して自殺をしようとしてしまいました。

しかし、ここで予定外のことが。

鯨は死人と話し掛けることが多くなっていました。

それは鯨の精神が不調となっていた証拠です。

蝉に暗示をかけようとした際にこの不調が現れ、蝉は自殺から逃れます。

そこで鯨は拳銃で蝉を殺したのでした。

鯨の勝ちですが、相撲に勝って勝負に負けたようなもの。

この不調がどんどん大きくなり、鯨は主人公を自殺させようとした際に完全に失敗してしまいます。

結果、自身が車に轢かれてしまうのでした。

5 押し屋と劇団

最後に、押し屋は主人公に正体を明かします。

そして家族もそれぞれの役割をしている劇団であり、それぞれ他人であることも教えました。

そして、押し屋も主人公の前から消えます。

復讐相手と2人の殺し屋、その他大勢が亡くなって、この不思議な騒動は終わったのでした。

騒動が終わってしばらくした後に、主人公は押し屋の子供2人を偶然見かけます。

今度は、違う誰かと家族を演じているようでした。

彼らは再びあのようなことしていて、それがあの騒動が現実であったことを証明していました。

6 総評

本作は非常に魅力的なキャラクター、特に鯨と押し屋を配置し、主人公、鯨、蝉と視点人物を切り替えながら展開していくという凝った構成の作品でした。

とてもおもしろい!

未読の方には、ぜひ薦めたい作品です。

それでも、気になった点はあります。

これは、伊坂幸太郎さんの他の作品でも感じたことです。

登場人物の行動の動機の弱さ、といったらよいのでしょうか。

主人公の復讐という大きな目標はわかりやすいのですが、個々の細かな行動の動機がわからない、というか共感できない部分がけっこうありました。

その時はいきおいで読んでしまうのですが、後から考えると?なのです。

それが伊坂ワールドを作る要素の一つなんだ。

そういわれれば、納得してしまうほどの大したことのない違和感ではあるのですが。