ギスカブログ

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【ネタバレ書評】三上延「同潤会代官山アパートメント」

1  本作の概要

アパートを巡る4世代の話です。

主人公が替わりながら、アパートを巡る話が続いていく。

そんな短編集になっています。

昭和初期に最新鋭だったアパートに住んだ若夫婦。

子、孫、ひ孫まで、恋愛や思いやりなどの人情と、思いのままにならない現実への対処。

そういう世間の片隅で生きている人たちの物語。

人生の切なさを感じるお話ばかりでした。

2 震災から震災まで

アパートと他にもう一つ、大きな題材になっていることがあります。

震災です。

本作は、関東大震災から阪神淡路大震災までの話になります。

始まりは関東大震災

姉と婚約者を残して女性が亡くなります。

残った姉と婚約者は夫婦となり、三階建てのアパートで暮らし始めます。

妹に対してコンプレックスと愛情を持つ妻と愛する人を死なせないためにコンクリートのアパートに住む夫。

それぞれを理解し、自分の感情に決着をつけるための暮らしを始めます。

妻視点から話が進みます。

この妻というか姉、穏やかなようで内面に激情が潜んでいるというちょっと仲良くするのはご遠慮したい性格ではあります。

夫がいい人過ぎるなあというのが感想。

関東大震災がなければ、この二人が夫婦になることもなく、別々の人生だったのです。

まあ、妹が生きてれば妻の人生も変わったことでしょう。

いや、変わらないかな。

けっこう強いこの性格。

後天的というよりは生まれつきっぽいし。

さて、娘の話や孫の話になり、最後は阪神淡路大震災がやってきます。

ひ孫の話です。

ひ孫の家は神戸。

孫が転勤して行ったのでした。

このひ孫、ひいおばあさんになついていまして、神戸の実家ではなくひいおばあちゃん家で暮らしています。

なぜか。

いじめがあって実家に帰りたくないからなんですね。

高校も東京で通い始めます。

そうこうしているうちに大震災がやってきました。

ひいおばあちゃんに背中を押されて神戸に帰ります。

被災した父母を助けました。

万々歳。

なんですけど、ひいおばあちゃんは無意識のうちにひ孫と妹を重ねていたのでした。

なんてお話になってたんですけど、これどうなんですかね。

なんか若い頃の思いがその人の一生を支配しているような感じで、いい話なのかどうなのか考えてしまいました。

3 総評

ノスタルジー系人情話なので、雰囲気ないし情緒を楽しめばいい。

途中からそう思いつつ読み進めました。

この中でお気に入りとなった話が一つ。

ガンに犯され人生の最後を感じた夫が、若い頃住んでいたアパートの三階に帰る話です。

そこにたどり着いて、妻にただいまと言う。

自分が幸せを感じていた頃、感じていた場所に戻る。

そういうお話です。

ですが、よく考えてみるとあの妻はですね。

若い頃はこのアパート嫌いだったし、妹の婚約者だった夫の愛情も疑ってたし、たぶん妻にはいい思い出あんまりないと思うのです。

結婚したての頃には。

ですが、夫は違ってたんですね。

なんか、これわかる感じがします。

自分でもこんなことしそうだし。

この場合、ただいまを言う相手の心情は、ほんとはどうでもいいんですね。

自己満足でいいんです。

だけど、自分がそうしたいというか。

自分の思い出、幸せ、そういうものに殉じたい。

そういう気持ちなんです。

まあ、決めつけちゃ悪いでしょうけど、こういう気持ちを持つ人はいますよ。

この話のいいところは、そういう人に付き合ってくれる人がいたってところです。

家族たちです。

どこまで本人の気持ちを理解していたのかは、さておき。

現実は、こうはいきません。

取り合ってもくれないし、何ならじゃまをします。

それがいいことと信じて、そうしてくるのです。

こういう現実だらけと知っている人は、この話が好きになると思います。

というわけで、この話の高い評価を加えた上での総合評価はこれです。

★★☆☆☆

2つかな。

悪くないけど、積極的に人に薦められるかというと。

微妙でした。