ギスカブログ

 読書しながらスモールライフ「ギスカジカ」のブログ

震災後の日本の在り方~書評「下り坂をそろそろと下る」

1 震災後の「坂の上の雲

2016年初刊の平田オリザさんの著作です。

題名の「坂」は司馬遼太郎の「坂の上の雲」の坂です。

つまりは国家の盛衰の坂。

下り坂となったその坂を、転ばないようにそろそろと下る。

そういう題名です。

既に、この題名に著者の現状認識が表れています。

つまり、日本は下り坂である。

そういう認識です。

具体的には、成長が鈍化した経済、人口減少社会。

そういうことが「下り坂」なのです。

そこを「そろそろと下る」とは、どういう振る舞いを指しているのでしょう。

本書の内容に沿って考えてみます。

2 地方の在り方

人口減少社会は、地方に端的に表れます。

若者の減少、高齢化、シャッター商店街

これら要因について、筆者はどう考えているのでしょう。

若者が流出する要因を筆者はこのように述べます。

仕事がないから都会に出ると、地方の首長らは考え、工業団地を造成して工場を誘致する。

しかし、真の要因はそこにはない。

若者は地方にはなにもないという。

つまり、楽しめること・わくわくすること、そういうことがまったくない。

結果、恋人と出会うこともない。

だから、そういうものがある場所という幻想をいだいて都会に出る。

つまり、生活できないから住まないのではなく、生活に夢がないから住まないのだ。

こういう主張です。

これは一理あるなあと思いました。

人間は、やっぱりパンのみで生きてるわけじゃないんですね。

そして夢のないところには、IターンもJターンもなく、ましてやUターンなどあろうはずがない。

高齢化が進むばかりとなる。

こういうわけです。

これを変えるために、演劇の演出家らしく筆者は、文化が必要だといいます。

小豆島の学校での演劇の取り組み、城崎温泉でのアーティストがいる街づくり、四国学院大学での演劇を取り入れたカリキュラム。

一流の芸術家が日常生活にいるという環境をつくり、地方の魅力を高める。

そういう取り組みによって、交流人口を増やし、地方を活性化させていく。

自らが関わった地方の取り組みを具体的に挙げていきます。

なるほど、箱物に頼った地方創生とは一線を画した活動です。

地方の魅力を高め、人を集めることになるでしょう。

筆者は、これまでの地方振興の取り組みにはかなり懐疑的です。

公共事業や地方交付税

公共事業で仕事を増やしても、買い物はその地方では行われない。

高速道路で少し大きな都市に移動したり、チェーン店で買い物し東京本社に利益が渡る。

地産地消」をうたっても、そもそも輸入食品の割合が高い国では、お金は地方に留まらない。

やはり地方で暮らしたいと人々に思わせる何かがないといけないかもしれません。

「文化」という視点は、考慮に値すると思いました。

3 アジア唯一の先進国ではない

筆者は、日本がもはやアジア唯一の先進国ではないことに慣れていないと述べます。

韓国に対する嫌悪、嫌韓は、韓国が同等以上になったからだといいます。

そして中国の台頭にも慣れていない。

アジア唯一の先進国ではなくなった現在の振る舞いに戸惑っている。

筆者の認識はそうなのだと思います。

中国はともかく、韓国を嫌っているのは同等とか格上とかそういうのではなく、際限なく和解を拒むことへの嫌気ではないかと思うのですが、わたしも専門家ではないのでおいておきましょう。

とはいえ、世界における日本の位置づけの変化が一国民のアイデンティティに関わるというのは、いかにも国民国家的な現代的状況ですね。

位置づけなどは、現実的利害がぶつかる外交で実際的な効果を持つとは思えませんし、仮に自分の国家が一流だとしても、それが自分自身の質の保証にはならないわけで、なんとも虚しい議論のような気がします。

筆者は右翼も左翼も否定しているので、どちらかの立場に立って論じているわけでもないでしょうし、本書もそういった政治的視点から論じた著作ではありません。

「下り坂」を歩く日本の危うさという点から述べているだけなのでしょう。

つまりは、「下り坂」を転ばぬようそろそろと下るために、このようなことにも気を付けないといけない。

そういう主張なのだと思います。

4 総評

上り坂を歩き始めた「坂の上の雲」の時代と現代を比較して述べた社会評論ではあるのですが、「下り」という認識がどうなのかなあと思いました。

先進国的低成長、つまりあまり変化のない時期に入った日本の戸惑いというくらいが適切ではないかと思います。

「イギリス病」という状況がありました。

それになぞらえれば、90年代以降の日本は「日本病」といってもよい状況でしょう。

しかし「イギリス病」が幻影だったという説があるように、今の日本の状況もあるべき普通の姿なのかもしれません。

そうした現代日本をどう生きるか。

こういう視点を与えてくれるという点で、本書は意味があるように思いました。

書評「経営の大局をつかむ会計」

1 財務諸表の読み方

本書は、実用的な財務諸表の読み方を教える本です。

初版が2005年なので、載っている実例は古いです。

しかし、考え方は今でも通じます。

とはいえ、細部にわたる細かいチェックを勧めてはいません。

筆者の言葉を借りれば、健全なドンブリ勘定ということになります。

実際、どのように読んでいるのか見ていきましょう。

2 会計情報で世の中を見る

いくつかの実例をあげているのでそれを見ていきます。

2005年という時代なので、今から見ると情報が古くなっていることはご了承ください。

業績好調な例として、消費者金融をあげています。

弁護士さん方の努力による債務返済ですっかりダメになってしまいましたが、この頃は好調でした。

消費者金融といえば、貸し倒れの危険がありそうという想像が湧きます。

実際、低収入層がお客と考えられますから。

しかし、不良債権率は8%ぐらいしかなかったのです。

破綻した足利銀行は50%もありました。

経営的には健全といえるのです。

また、資金調達は2%の低利でした。

それを二桁金利で貸していたわけですから儲かるわけです。

貸した相手は若年層・主婦層だったといわれます。

高利も1度で返済すればこわくない。

こう考える人が多かったのです。

不良債権率からみると、きちんと返していた人が多かったことがわかります。

借金をしても消費したいという層が日本にも多いことがわかります。

会計から社会がわかるのです。

3 ビジネスモデルをおおまかにに読む

貸借対照表から会社のビジネスモデルがわかります。

セブンイレブンを例とします。

セブンイレブンは、借り方に現預金が多く、貸し方に買掛金が多い会社です。

このことは何を意味しているのでしょう。

現金があまるほどある会社ということです。

このような資金余力がセブン銀行のような金融業への参入を可能にしていたのでしょう。

次にソニーを見ます。

ソニー損益計算書は、3か月で収益が増えたり減ったりと変化が大きいです。

これは、ゲーム・映画・楽曲などの娯楽産業の流行りすたりに影響されているのです。

また、音楽からゲーム、ゲームから携帯と若者が課金するものが次々に変わっていきます。

今ならスマホ関係でしょうか。

なので、長期の見通しがたちにくい。

ソニーに業績がなかなか好転しないのは、こういうところにも一因があるのでしょう。

最後に楽天を見ましょう。

最近の楽天は携帯電話事業の赤字でたいへんなことになっています。

2005年も赤字でしたが、見通しは明るかったのでした。

楽天はマイトリップネット株式会社とDLJディレクトSFG証券を買収していました。

この買収による特別損失を買ったその期に償却したのです。

それで赤字ですが、これらは楽天トラベル、楽天証券となりました。

楽天グループを支える優良企業であることはご承知のとおりです。

赤字という数値も、財務諸表を見れば種類がちがうことがわかってくるのでした。

4 総評

わたしはイデコをしているだけなので、投資界隈は詳しくないのですが、こういう実践的な財務諸表の読み方はおもしろいと思いました。

これらは公表を義務づけられている表簿ですから、誰でもHPなどで閲覧できます。

投資をするにしても、面倒くさがらずこういうことを見取る・読み取ることをしていけば、手痛いことにはならないのだろうと思いました。

でも、まあ、好きでないと継続しないかもしれませんね。

投資のイロハ~書評「世界一カンタンなほったらかし投資」

1 独立金融アドバイザーの本

「ほったらかし投資」という用語を使った本は複数でています。

本書は、独立金融アドバイザーの前川富士雄さんの著書です。

投資に関する本は多く出版されていますが、やはり著者によって商品の薦め方がちがっています。

その辺りに注意しながら、本書の主張を見ていきます。

2 分散投資

本書は分散投資をまず薦めています。

分散の反対は集中投資です。

つまり1点買いとかそんなのですね。

例えばアップルにだけ投資するとかそんなのです。

万が一、アップルが暴落したら大損です。

なので、分散しておくのがよいのです。

このあたりは、優良な投資信託を購入するのがいいとこうなるのですが、そこまでは薦めていませんでした。

3 長期投資

次に長期投資を薦めています。

つまり、売買による差額確保、いわゆる投機は避けるという考えですね。

これは、株の値動きを完全に読むことはできないし、売り買いのタイミングも人間心理でなかなか決まらない。

こういうことを踏まえてのことです。

株価がどう動くかわからないのだから、売り買いのタイミングに自信を持つことなど不可能なのですね。

また,ブラックマンデーリーマンショックのような暴落もありましたが、長い目で見ると株価はしだいに上がっていってます。

なので長期保有をしていれば損する確率はかなり低減する。

こういうことですね。

3 積立投資

著者はドルコスト平均法での購入を薦めます。

これはどういう購入法かというと、案外簡単です。

毎月、一定額で購入し続ければいい。

そういう購入法です。

株価が高ければ、購入する口数は少なくなります。

株価が低ければ、購入する口数は多くなります。

結果、口数でバランスを取るのでリスク分散になり、購入するタイミングを迷うこともなくなります。

淡々と積立を継続していく。

これが結果的にほどよい株価で購入することにつながるのです。

4 プロの力を借りる

最後に専門家の力を借りるのがよいとサラッと述べています。

確かに相談相手が必要なことはあるでしょう。

しかし、これは自分たち独立金融アドバイザーの宣伝かもしれません。

なぜなら、著者はアクティブ運用を薦めているんですね。

完全なほったらかしならばインデックス運用投資信託の方が楽なはずです。

売買の方針が明確ですからね。

そこを人間の判断で売ったり買ったりするアクティブ運用を薦める。

つまり、自分たちの相談枠を残したのではないか。

ちょっとそう感じました。

確かに良心的な相談者がいるのにこしたことはないのですけれど。

5 出口戦略

投資して築いた財産もいつかは使わなければなりません。

老後資金として積み立ててきたのであればなおさらです。

筆者はこのために積み立てるときの戦略と取り崩すときの戦略を述べています。

まずは、積み立てるときの戦略です。

筆者が薦めているのは「口数複利戦略」です。

これは、分配金を受け取る戦略です。

もう一つが「値上がり戦略」で、これは分配金を受け取らずに再投資していく戦略です。

こちらも有力な戦略なのですが、短所があります。

資産を使う際に取り崩すことです。

取り崩していくことで、だんだん資産が減っていく。

長生きすると不利になるというわけです。

口数複利戦略は絶対に売らない戦略です。

分配金だけを受け取り、生活していく。

なので口数は減らない。

資産が長生きする方法です。

筆者は、在職中は分配金を再投資し、引退後は分配金を受け取るという方法を薦めています。

6 総評

ほんと金融アドバイザーの主張もいろいろですね。

今の主流は、インデックス投資でのほったらかしで、しかも分配金は受け取らない再投資法です。

著者はアクティブ運用で分配金受け取り型を薦めているのでここは主流とはちがいます。

主張の根拠もわかりました。

結局、ここを決めるのは投資家になるでしょう。

となれば、完全に「ほったらかし」ではなく、自分で判断できる知識を得ることが必要になると思いました。

まあでも、世界一カンタンかどうかは置いておくとしても、投資をしたことがない人にとってわかりやすい本です。

実際に投資する際には、評判のよい書籍をもう数冊読んだ方がよいと思いましたが。

投資で大切なこと〜書評「投資信託・ファンドラップ・債権・株、損をする本当の理由と賢い選び方」

1 優れた投資解説本

わたしが読んだのは、産経新聞出版からでている1冊でした。

内容装丁がほぼ同じで、自費出版のものもあるようです。

おそらくは、自分たちの会社の説明をするための本だったものが、好評のため商業出版となったのでしょう。

本書の内容は、そう想像できるくらい優れています。

たいへん勉強になりました。

何が1番勉強になったか。

それは、証券会社のブラックな手法です。

2 独立金融アドバイザー

著者は、元証券会社社員です。

退社して独立金融アドバイザーになりました。

退社した理由は、自分が思い描いていた仕事ができなかったからです。

顧客に損をさせるかもしれない商品を売る。

そういうことができなかったといいます。

証券会社は退職者の多い業界です。

そして再び証券会社に就職したくないというのです。

そこには、やはり何かがあるのでしょう。

独立金融アドバイザーは、証券会社から独立した存在で、証券会社の事情にとらわれず顧客に投資のアドバイスができるといいます。

日本ではあまり知られていませんでしたが、金融取引が進んでいる欧米では一般的な存在だとか。

こうして、ようやく満足できる仕事に就くことができたのだそうです。

3 証券会社のブラックな手法

さて、証券会社のブラックの手法とは何か。

基本的にこんな具合です。

まず、顧客に損をする確率が高い商品を短所をいわずに売りつける。

それから、短期間で人事異動をし、損をさせた顧客を後にする。

新しい担当がそれまでのことはなかったことにして、また損する商品を売りつける。

こういうことを繰り返すのだそうです。

こういうことをしても、売った商品がよいものであれば問題がないのです。

ですが、よいものではないのでした。

売ったのはこんな商品です

1 毎月分配型投資信託

有名ですね。

毎月一定の額の分配金が配られます。

これが投資で儲かったお金を分配しているのであれば幸せです。

しかし考えてもみてください。

そんなに毎月儲かるでしょうか?

儲かってないのです。

しかし、毎月お金が配られます。

どこからそのお金はくるのか?

自分の投資したお金からです。

結局、自分のお金を自分で受け取っているだけ。

そのお金は手数料等でどんどん減る。

まったくここまでアホな商品をよく開発し、人に勧められたものです。

ちなみに元本を払い戻す手法は、欧米では禁止だそうです。

2 ファンドラップ

ファンドラップはプロが運用しているので安心。

購入時の手数料がなく、ファンドラップ手数料と投資一任料の合計として年率1.7%の

手数料がかかるだけ。

というセールストークで勧められるのだそうです。

しかし、ファンドラップには間接手数料というものがあるそうです。

それが1.3%。

結局3%の手数料がかかるのです。

例えば、3%の利率で運用できたとしても、差し引き0でまったく儲からない。

こういうことになるのがとても多いのだとか。

投資に高率の手数料は厳禁です。

まったく儲からなくなります。

しかし、この間接手数料を説明しないことが多いのだそうです。

やれやれですね。

3 新興国債券

トルコ、ブラジル、南アフリカ

これらの国々の債券は金利がとても高く魅力的です。

日本のようにほぼ0金利の国に比べて儲かりそうに見えます。

しかし、高いには高いなりの理由があります。

1つは、インフレ。

通貨価値の下落が早いので、利率が高くとも総体の価値が減ってしまっては意味がない。

こういうことです。

もう1つは、為替手数料が割高。

円からその国の貨幣に変えて、債券売り買いして、その国の貨幣から円に替えて。

と2買い為替を経るのですが、その度にドルなどと桁違いの手数料がとられます。

なので、手元に残るお金はどんどん減ると。

こういうことになるのだそうです。

 

3つ例を挙げましたが、どれもろくでもないものでした。

それでも経済好調な時は、これらの商品でも儲かるのでしょう。

しかし、そうではないことが多いのはご存じの通りです。

それから、証券会社と顧客は、致命的な点で対立関係にあります。

それは手数料。

証券会社は多くの手数料を取りたく、顧客はできるだけ手数料を減らしたい

証券会社が手数料商売である以上、避けられない対立点です。

win-winな関係にはならないのです。

人手が少ないため手数料が安いネット証券が流行るのもわかりますね。

4 総評

本書は、自社の宣伝も兼ねているので、後半は顧客の感想とか申込方法とかが載っています。

なのでライバルである、店舗型の証券販売会社、証券会社・銀行・郵便局の価値を下げて自社を上げるという面はあります。

しかし、それを差し引いても本書の前半部分は読む価値があります。

おそらくは真実なのでしょう。

そして、投資商品の見方を知ることもできます。

そういう警告型情報として本書は非常に優秀だと思います。

投資を考えている方は、一読を勧めます。

それに読みものとしても、おもしろいですよ。

 

 

よりよい関係の築き方〜書評「気遣い」のキホン

1 気遣いはスキル

あの人は気遣いのできる人だ。

何て細やかな気遣いなんだろう。

このように話されたらうれしいですよね。

気遣いができるということは、周りから称賛されることです。

一方、気遣いが得意な人と苦手な人がいることも事実。

誰でも気遣いができるようになれるとは思えません。

しかし、本書の著者はこのように断言します。

気遣いは、決してもともと備わっている能力や性格ではなく、行動であり、習慣であり、意識して身につけることができるスキルです。

スキルであれは、訓練で身に付くはず。

わたしにも期待がもてました。

本書を読んで、よかった、自分でもできそうということを4つ紹介します。

2 おすすめのスキル

1つめは、「名前をつける」です。

お客さんや取引先に話しかける時に名前をつけると親近感を高めるのだそうです。

「どうぞ」ではなく「三上さん、どうぞ」

「部長」ではなく「鈴木部長」

こういうことで、ぐっと親しみが増すのだとか。

確かに、自分がそうされた時を想像すると、大事にしてされている感じがします。

2つめは、「意味のある雑談」です。

雑談は、打ち解けた雰囲気をつくります。

相手との距離を縮めることに役立ちます。

しかし、どんな雑談でもいいというわけではありません。

相手が退屈してしまってはマイナス効果です。

相手にとって意味のある雑談をすることが大切なのです。

では、どんな雑談に意味があるのでしょう。

これには3つの観点があります。

「情報性」…相手にとってプラスとなる情報があること。

「共感性」…相手に共感できるようなところがあること。

「意外性」…相手がくいつくようなおもしろさあること。

この3つです。

これらの条件を満たすためには、相手を知らなければなりません。

下調べが必要というわけです。

「気遣い」のために少しの準備は必要ということですね。

3つめは,「素早く、細やかな報告」です。

これは,特に上司に対しての気遣いになります。

上司はとにかく情報がほしいものです。

情報をあげずに指導されたケースを多くありますが、情報をあげすぎて指導を受けたケースはまれです。

細やかに報告をすること。

それが好感を呼びます。

しかし、上司はいろいろな決断をしなければなりません。

時間に余裕があるわけではないのです。

なので素早い報告が大切になります。

とはいえ早口での方向など論外。

この場合は結論から話すということが大切です。

伝えたいことを最初にいう。

この習慣が相手を思いやった行動となります。

4つめは、「指導の定型」です。

これは部下に対する気遣いですね。

誰でも、指導や指摘を受けるのは気分良くありません。

上司からであっても、内心は穏やかではないでしょう。

しかし、指導しなくてはいけない場面は必ずおきます。

そこでどうするか。

このような手順で話します。

① 挨拶…三上さんお疲れ様。

② 褒め(ねぎらい)…機内販売の説明が上達したね。

③ 本題…商品をお見せするとき、もう少しお客様の目の高さにくうよう、しゃがんで説明するといいかな。せっかく良い説明をしているからもったいない。

④ 励まし…あと1便だね。最後までがんばろう。

このような手順です。

相手に受け入れやすい順番になっています。

これは、子どもへの注意やビジネスでの依頼にも使えます。

大変役立つ話し方で、ぜひ身につけたいと思いました。

3 総評

本書の著者は、CA(客室乗務員)でした。

研修でCAだった方によるマナー指導だったかアンガ-・マネジメントだったかを受講したことがあります。

丁寧に接することの大切さは伝わってきましたが、本心から納得できるものではありませんでした。

しかし、本書の気遣いは違います。

一つ一つのスキルが、なるほどと腑に落ちるものばかりでした。

4つ紹介しましたが、本書には30いくつ例が載っています。

気になった方は、ぜひ手に取られるとよいでしょう。

なお、オーディオブックもあるようです。

忙しい方にはこちらもお薦めです。

 

理想の上司になるために~書評「メンタリング・マネジメント」

1 メンター

本書はメンターの在り方について述べた本です。

メンターとは何でしょう?

簡単にいうと、「相手をやる気にさせる人」です。

故人の能力を最大限に発揮させるために、精神面から支援をする人、といってよいかもしれません。

つまり、相手を高める人です。

本書は、会社における上司の在り方という点からメンターを語っています。

上司に、このような刺激的な言葉を投げ掛けています。

事業を成功させるのか、事業を成功させる人を育てるのか。

会社にとって、あらゆる面から見て有益なのはどちらでしょうか。

2 依存型人材の育成法

反面教師的といってよいでしょう。

もっともしてはいけない、依存型人材の育成法について筆者は語ります。

たいへんおもしろかったので紹介しましょう。

まず、依存型人材とはどんな人でしょうか。

・物事を自分にとって不都合かどうかで判断する

・他人からの指示をまち、まわりがしなければ自分もしない。

・求められたことだけをこなし、いかに自分が楽をするか考える。

・問題の原因は、常に相手や状況にある。

・他人に評価されないことはしない。

要は、仕事が嫌いで仕方なくやっている人材ということです。

一緒に働いていたら、いや隣人にいたら、もう確実に嫌になりますね。

こういう人をどうやって育てるか。

育てたいと思う人はいないでしょうが、意に反して育ててしまうことがあるのです。

その方法が管理的マネジメントです。

相手を思い通りに動かそうとする手法です。

具体的には、こうなります。

・相手に納得させることなく,無理やりやらせる。

・自分があきらめている。

・相手のせいにする。

・相手に関心を示さない。

4つあげましたが、本書では8つあげています。

この中で「自分があきらめている」とは、「この会社では無理だ」「社会のシステムができるようになっていない」などと、実現をあきらめていることです。

実現しようと思っていないのですから、できるわけありませんよね。

マザー・テレサの有名な言葉に「愛情の反対は無関心」というものがあります。

部下や同僚に無関心であれば、その相手が期待に応えることはないでしょう。

こういう姿勢が依存型人材を育てるのです。

多忙の中、無意識にしている方もいるのではないでしょうか。

3 メンタリングの行動基準

依存型ではない自律型人材を育てるためには、メンタリングを行うことです。

メンタリングには、難しい手法はありません。

従うべき行動規準が3つあるだけです。

その規準にしたがって行動することで、自律型人材の育成ができるのです。

では具体的に見ていきましょう。

1 見本となる

まずは、自分が部下や同僚の見本となるのです。

自分から始める。

まずはやってみる。

人を動かすのではなく自分を動かす。

こういうことです。

・やる気を出させる前に自分が出す。

・人に助けられる前に自分が助ける。

・話をよく聞く人を育てる前に自分が人の話を聞く。

・自ら難しい仕事に取り組んでみる。

こういうことを見ている人は、まねをしたくなるものです。

まずは自分から。

これが行動規準の第1です。

2 信頼する

行動規準の第2は「信頼する」です。

相手が信頼に値するかどうかを考えるのではありません。

相手をあるがままに受け入れ「信頼する」のです。

そもそも、相手が自分をどれくらい信頼するかは、自分が相手を信頼している度合いと連動しています。

自分が信頼する分だけ相手も自分を信頼する。

これが真実です。

だからこそ相手を信頼するのです。

そして、信頼の本気度は責任によって測られます。

信頼するといいながら、相手が失敗した時に相手を責めたらどうでしょう。

いくら論理的に正しくとも、それは信頼に値するでしょうか。

信頼した相手が失敗したら責任を取る。

泥を被る。

こういう姿勢があって初めて信頼が得られるのです。

部下の場合は特にそうです。

信頼して任せたら、責任は自分持ち。

この姿勢が大事なのです。

3 支援する

最後の行動基準は「支援する」です。

支援といっても、具体的な中身ではありません。

もちろん協力する、一緒に悩む・考えるといったことは大切です。

でも、それよりも大切なことがあります。

それは「支援する」という姿勢をもつことです。

姿勢です。

態度です。

相手に寄り添うことです。

これがない支援は「支援する」と認識されません。

相手の心は、あなたから離れていきます。

相手の側に居るということ。

もちろん、物理的にということは不可能な場合が多いでしょう。

心理的に側に居る。

これが大切なのです。

4 総評

メンタリング・マネジメントは何をマネジメントするのでしょう。

形式的には相手をマネジメントするのですが、それは本質的ではありませんでした。

相手を力を引き出す・伸ばすためには、相手にかかわる自分をマネジメントするのでした。

なにやら禅問答のようですが、真実だと思います。

相手をコントロールするなんてことはできません。

コントロールできるのは自分自身だけです。

だから、自分をマネジメントする。

それが、理想の上司に近づく最良の手段なのでした。

この本は、上司だけでなく人間関係を改善したいすべての人に勧められる本です。

理想論過ぎるといわれるかもしれません。

しかし、遠回りに見えて近道なのは、自分を変えることなのでしょう。

地方銀行の役割〜書評「捨てられる銀行」

1 地方銀行の現実

銀行の内実は、外部からはわからないものです。

わたしたちが窓口で見る姿からは業務の内容がわかりません。

最近はATMですから、なおさらです。

さてもう一昔前になりますが、バブル後に大型破綻が相次ぎました。

北海道拓殖銀行などです。

本書は、その後の地方銀行の内実と今後の展望を著しています。

地方銀行の現実を知るのにとてもよい本でした。

2 資産査定

ドラマ「半沢直樹」を覚えておいででしょうか。

銀行員を主人公とし、銀行業務を通して人間ドラマを描きました。

その中で、片岡愛之助演じる金融庁の銀行査察が大きな出来事として取り上げられていました。

頭取の面子にかかわるような大きな出来事でした。

どうやらドラマの中であったような査察による指摘は実際にあるらしいのです。

なので銀行としてはこのような指摘をできれば避けたい。

そのために多くの労力を使ってしまう。

こういうことがほんとうにあったようです。

その結果、金融庁に注力してしまい貸出先に目が届かない。

貸出先の実態をつかみかねてしまう。

貸出先の業務が不審となり、最後にはその地方が衰退してしまう。

とまあ、こういうろくでもない展開になりがちなのだそうです。

この査定自体は、不良債権処理と銀行の健全化を目指したものだったので、元々悪いものではありませんでした。

ですが、運用を続けていくうちに、副作用が大きくなってしまったというところなのでしょう。

不良債権を処理することが国としての優先事項ではなくなった後も、査察は続いていたそうです。

3 地方銀行の役割

2015年に森信親さんが金融庁長官になりました。

このことが日本の金融情勢を大きく変えたと筆者はいいます。

不良債権処理の査察中心から地方創生へ

こう大きく舵を切ったのだそうです。

銀行の健全運営だけを考えるのではなく、地域産業の中心としての銀行へ。

このように役割の重点が変わったのでした。

例として稚内信用金庫が取り上げられています。

北海道拓殖銀行の破綻を受けて、その余波を受けた地方銀行も多くあった中、いち早く影響下から脱したのでした。

地域や取引先よりも北海道拓殖銀行を大切にする義理はない。

そういう考えだったそうです。

単にお金をけちるのではなく使うところには使う。

第三セクターの地方空港など、地域振興にはお金を出す。

そのような方針で、地域からの信頼も厚くなったといいます。

銀行の社会的役割を体現していったのでした。

一方で名前を挙げられてはいませんがこんな銀行もあったといいます。

メイン銀行ながら企業の相談にあまりのらないAと企業の相談にのり取引先まで探す銀行B。

その企業はAとの取引をすべて引き上げBに乗り換えることにした。

メイン銀行は頭取があいさつに乗り込んで説得したといいます。

このままでは支店長の首をきらなければならないと。

しかし企業の社長はこういいました。

あなた方はいつもそうだ。

支店長がどうなるかはそちらの問題。

いつも自分たちのことしか考えない。

メイン銀行を変える決定は変わらない。

端的に銀行の役割を表しているエピソードです。

4 総評

銀行に対する大きな期待があると感じました。

わたし個人としても銀行がなければ困ります。

しかし、それは銀行には銀行の役割をしてもらえればいい。

振込をしたりやクレジットカードへの支払いをしたりすればオッケー。

このくらいの認識でした。

しかし、ただの一企業ではなく銀行は社会のインフラストラクチャーとして重要な役割がある。

それを忘れて自分本位になってもらっては困る。

こういうことだと思います。

この新書は評判がよかったのか、続編の出版されています。

確かに読んで目が開かれるところが多かったですね。

銀行や地域の金融に興味がある方は、ぜひ読んでみてください。

一気に読める楽しさもありますよ。