1 地方銀行の現実
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銀行の内実は、外部からはわからないものです。
わたしたちが窓口で見る姿からは業務の内容がわかりません。
最近はATMですから、なおさらです。
さてもう一昔前になりますが、バブル後に大型破綻が相次ぎました。
北海道拓殖銀行などです。
本書は、その後の地方銀行の内実と今後の展望を著しています。
地方銀行の現実を知るのにとてもよい本でした。
2 資産査定
ドラマ「半沢直樹」を覚えておいででしょうか。
銀行員を主人公とし、銀行業務を通して人間ドラマを描きました。
その中で、片岡愛之助演じる金融庁の銀行査察が大きな出来事として取り上げられていました。
頭取の面子にかかわるような大きな出来事でした。
どうやらドラマの中であったような査察による指摘は実際にあるらしいのです。
なので銀行としてはこのような指摘をできれば避けたい。
そのために多くの労力を使ってしまう。
こういうことがほんとうにあったようです。
その結果、金融庁に注力してしまい貸出先に目が届かない。
貸出先の実態をつかみかねてしまう。
貸出先の業務が不審となり、最後にはその地方が衰退してしまう。
とまあ、こういうろくでもない展開になりがちなのだそうです。
この査定自体は、不良債権処理と銀行の健全化を目指したものだったので、元々悪いものではありませんでした。
ですが、運用を続けていくうちに、副作用が大きくなってしまったというところなのでしょう。
不良債権を処理することが国としての優先事項ではなくなった後も、査察は続いていたそうです。
3 地方銀行の役割
2015年に森信親さんが金融庁長官になりました。
このことが日本の金融情勢を大きく変えたと筆者はいいます。
不良債権処理の査察中心から地方創生へ。
こう大きく舵を切ったのだそうです。
銀行の健全運営だけを考えるのではなく、地域産業の中心としての銀行へ。
このように役割の重点が変わったのでした。
例として稚内信用金庫が取り上げられています。
北海道拓殖銀行の破綻を受けて、その余波を受けた地方銀行も多くあった中、いち早く影響下から脱したのでした。
地域や取引先よりも北海道拓殖銀行を大切にする義理はない。
そういう考えだったそうです。
単にお金をけちるのではなく使うところには使う。
第三セクターの地方空港など、地域振興にはお金を出す。
そのような方針で、地域からの信頼も厚くなったといいます。
銀行の社会的役割を体現していったのでした。
一方で名前を挙げられてはいませんがこんな銀行もあったといいます。
メイン銀行ながら企業の相談にあまりのらないAと企業の相談にのり取引先まで探す銀行B。
その企業はAとの取引をすべて引き上げBに乗り換えることにした。
メイン銀行は頭取があいさつに乗り込んで説得したといいます。
このままでは支店長の首をきらなければならないと。
しかし企業の社長はこういいました。
あなた方はいつもそうだ。
支店長がどうなるかはそちらの問題。
いつも自分たちのことしか考えない。
メイン銀行を変える決定は変わらない。
端的に銀行の役割を表しているエピソードです。
4 総評
銀行に対する大きな期待があると感じました。
わたし個人としても銀行がなければ困ります。
しかし、それは銀行には銀行の役割をしてもらえればいい。
振込をしたりやクレジットカードへの支払いをしたりすればオッケー。
このくらいの認識でした。
しかし、ただの一企業ではなく銀行は社会のインフラストラクチャーとして重要な役割がある。
それを忘れて自分本位になってもらっては困る。
こういうことだと思います。
この新書は評判がよかったのか、続編の出版されています。
確かに読んで目が開かれるところが多かったですね。
銀行や地域の金融に興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
一気に読める楽しさもありますよ。