ギスカブログ

 読書しながらスモールライフ「ギスカジカ」のブログ

自己肯定感を高めていこう

 NHKのニュース9を見ていたら,子供の自己肯定感を高めることが大切であるという特集をしていました。
 なんとタイミングのよいことでしょう。
 ちょうど「自己肯定感が低い自分と上手につきあう処方箋」という本を読んだばかりです。
 私も自己肯定感は低い方です。
 では,どうやって乗り越えていくとよいのでしょう。
 本の感想を述べながら,考察したいとおもいます。

 まずは,自己肯定感の低い人はどんな特徴を持っているかを述べます。
 自己肯定感の低い人は,他人からの依頼を断れません。
 他人にはっきりと意見を言えないからです。
 そして,依頼を満足にこなせずに後悔します。
 この後悔は「やっぱり…」という後悔で,次につながる反省ではありません。
 そして,失敗を思い出すことが多いです。
 失敗した事実よりもその時に他人から受けたマイナスの感情を強く覚えています。
 それが自分を責める材料になっているのです。
 また,意外なことに他人をよく批判します。
 それも陰口のような批判です。
 他人を認めると自分がみじめになると感じているからです。
 つまり,直接自分を高めるのではなく,他人を下げることで自分の価値を高めるのです。
 自己認識では,幼い頃に親からかけられたマイナスの評価の影響を強く受けています。
 この親の言葉は暗示といってもよく,とても強いものです。
 しかし,決してこの状態に甘んじているわけではありません。
 抜け出したいと思っています。
 しかし,自力ではなく誰かに助けられることを信じているのです。
 他力なんですね。

 では,このような状態からどうやって抜け出すのか。
 まずは,ネガティブな思考のくせをやめることです。
 このネガティブな思考は,自分に対する暗示のようなものです。
 自分で暗示をかけているのですが,そのことに気づくことは難しいのです。
 そこで,自分に対する言葉使いを変えます。
 次の三つの言葉を使わないようにします。
 「だって」「私なんて」「どうせ」です。
 「だって」は言い訳を導きます。
 言い訳は,改善や向上を妨げます。
 「私なんて」は卑下です。
 挑戦する心を失います。
 「どうせ」は悲観的運命論,決定論です。
 ダメな未来なんて決まっていません。
 まずは,このような言葉使いを止めて,その背後にあるマイナスの認識を追い出していくのです。
 案外いい言葉が「意外と」です。
 自分に自信を持たせる言葉です。
 日々の暮らしでは,あまり先々のことを考えず今に集中します。
 そして,他人からのマイナスの言葉は流して聞き,楽しい言葉にだけ返事をしていきます。
 とはいっても仕事上の連絡には応対してください。
 そして,他人が自分をどう思っているかを考えすぎない。
 思い切って考えない。
 人の気持ちは,どうせ推理や憶測です。
 神様でもない限りわからないものです。
 気にしないのが一番ですが,それでも気になるものです。
 なので,思い切って考えるのをやめるのです。
 だってわからないのだから,とそう思いましょう。

 極端な処方箋なのかもしれませんが,この本を読んでやってみる価値はあると思いました。
 重い患者には強い薬が必要です。
 そう考えて,とりあえず挑戦してみるのがよいと思います。
 挑戦できることが,自己肯定感を高める一歩になるのですから。

誰の心にもアダルト・チルドレンがいるかも

 アダルトチャイルドという言葉をたまに耳にします。
 大人になりきれない人ぐらいの意味かなあと思っていました。
 アルコール依存症の家族のもとで育ったり,機能不全の家族のもとで育った人のことを指すようです。
 一般に,低い自尊感情と屈辱感を持つようになり,共依存や悪い習慣をもちやすい傾向にあるといいます。
 と調べた結果はそうなのですが,アダルトチルドレンと複数形と呼称されることが多いようです。
 日本では,機能不全な保護者のもとで育った人間関係形成に課題をもつ人といった意味合いで使われることが多いようです。
 周囲にあまり当てはまる人がいないようにも思えるのですが,案外乗り越えたり隠したりしている方がいるかもしれません。
 ということで「アダルト・チャイルドが人生を変えていく本」を読みました。
 個人の著作ではなく,アスク・ヒューマン・ケア研修相談センターの編著となっています。
 読んだ感想を述べていきます。

 まずアダルト・チャイルドがすべきことは,自分と他人の境界の境界をはっきりさせることだそうです。
 どうゆうこと?
 アダルト・チャイルドは,多くの場合共依存の関係を築きます。
 相手に頼られているということが自尊心に,というより自分の存在価値になっている状態のことです。
 ですから,共依存の相手と自分の境があいまいなんですね。
 でも,相手の心を自分のようにコントロールはできない。
 なので,相手の不安が自分の不安となってしまう。
 こういう心理状態になちがちなんだそうです。
 これを断ち切ることが必要なのです。
 その第一歩として,相手と自分の境界をはっきりさせる。
 相手のことは相手のこととはっきり認識する。
 こういうことが大切なんだそうです。
 しかし,なんで境界が曖昧かというと,自分の存在意義が薄いからなのだと思うので,自分の価値・意義をしっかりと認識させることを同時にする必要があると思います。

 次に印象に残ったことは,「アサーティブなコミュニケーション」をとるということです。
 アサートって,主張するっていう英単語ですね。
 割と強めに主張する時に使われていたような気がします。
 アダルト・チャイルドは,頼られることで存在意義を感じ取るので,主張が上手じゃないんだそうです。
 それでしっかりと主張することで,相手と対等なコミュニケーションを取ることが必要であるとこういうわけです。
 普通に考えて,交渉ですよね。
 相手の気分を害さないように主張することができるようになる。
 こういう技術の訓練が必要なのだと思います。
 本の中でコミュニケーションで大切なことが四つあげられていました。 
 誠実,率直,対等,責任です。
 相手や自分に対して誠実に,つまり嘘やごまかしをせずに,自分の思いを率直に述べ,対等な立場で話し合い,話し合ったことに責任をを持つ。
 こういうことができれば,アダルト・チャイルドであろうとなかろうと信頼される人間になると思います。

 もう一つ印象に残ったことがあります。
 それは,相手との関係を終わらせるということでした。
 適切な関係でない場合,相手や自分によくない影響がある場合に,関係を終わらせることは,人間関係ではよくあります。
 しかし,アダルト・チャイルドは相手に依存しているので,なかなか関係を終わらせることができないのだそうです。
 それを,それこそアサーティブにはっきりと伝えることが大事だということでした。
 そして,終わった気持ちを癒すことにも留意すると。
 妥当な行動をしたとしても,人間関係を終わらせたことに対する罪悪感等が残りがちなのだそうです。
 それを時間をかけて終わらせる。
 自覚的に癒やす。
 そういうことが大切なのだそうです。

 中学生の時,好きだったマンガがありました。
 「はみだしっ子」というマンガです。
 三原順さんのマンガでした。
 最終章の「つれていって」の辺りを読んでいて,当時はよく分からなかったこともあったし,結末は解決になったのかな(主人公が仲間を守る嘘をついて終わります)と思っていたのですが,これアダルト・チルドレンに当てはまるのだとか。
 登場人物に共感していた私も,アダルト・チルドレンの要素があるのかなあと思いました。
 実際,多くに人間の心理状態はスペクトラムで関連しているようにも思います。
 この本で知ったことが,アダルト・チルドレンとみなされない人にも役立つのではないかと思いました。

不安と暗示,そして言葉の力

 不安は,誰にでもある感情です。
 私も,悪いことを考えないようにしていますが,不安な気持ちになることはよくあります。
 今回は不安にとらわれた場合にどうするかをテーマとした本を読みました。
 題名は「『すぐ不安になってしまう』が一瞬で消える方法」です。
 何という分かりやすい題名でしょう。
 読んだ感想を述べていきます。

 この本は,不安や心配になりやすい人を対象としていました。
 不安を取り除くには,事前に十分準備をすればよい。
 そう考える方は多いでしょう。
 私も,初めて行く場所,初めて行う仕事をする時は,準備をするようにしています。
 しかし,不安を感じやすい人にこの対策は役に立たないのだそうです。
 なぜか。
 不安を感じやすい人は,計画を立てれば立てるほど不安になるからだそうです。
 あれも不安,これも不安とこれから行うことをが具体化されればされるほど,不安の種が出てくるのだとか。
 不安なことへの対策は大切なのですが,これでは不安が消えません。
 もっと根本的な対策が必要なのです。

 不安を感じる根本はどこにあるのか。
 それは外部にあるのではありません。
 不安の原因は自分にあるのです。
 自分の心が不安を作り続けているのです。
 不安を感じる人は,相手が自分のことをどう思ったかに自信がありません。
 相手が不快に思ったのではないかと考えがちです。
 そうではないことをあれこれ考えます。
 相手に不快じゃなかったかを確かめることもあります。
 それでも不安は解決しません。
 相手が礼儀や体面を考慮して,真実を言わなかったと考えるのです。
 結局,本当のところ相手を信頼していないのです。
 つまり,相手が不安を作っているのではなく,自分の心が作っているのです。

 これに対する筆者の対策は,人の気持ちを考えすぎない,というものでした。
 そりゃそうだろ,と思いますが,このような説明をします。
 人の気持ちはコントロールできない。
 考えすぎても対策はできない。
 コントロールできるのは,自分の心である。
 自分の心をコントロールするようにすればよい。
 このように訴えます。
 確かに自分でどうにかできるのは自分の心です。
 不安で萎縮して,できるはずのことができない。
 普段はしないような失敗をしてしまう。
 こういうことにならないためには,自分の心のコントロールが必要でしょう。
 しかし,問題は方法です。
 どうやって,コントロールすればよいのか。

 筆者は,ここで暗示という提案をします。
 暗示の力はすごいといいます。
 自分で大丈夫と思える言葉を選び,それを繰り返し唱えるといいます。
 確かに言葉の力を強いです。
 しかも,自分で自分に語り掛けるのですから,誰かにコントロールされているわけでもありません。
 そういう言葉を自分で見つけるようにすることが大切とのことでした。
 言葉によって,思考をシフトチェンジする。
 そうやって,不安を断ち切るのだそうです。
 ただし,言葉選びは慎重に行うべきとのこと。
 言葉の力は強いので,思わぬマイナスの効果を及ぼすこともあります。
 自分によく効き,新たな不安を呼ばないような言葉。
 そういうものを探すことが大事とのことでした。

 筆者は,生きることは自分の喜びだといいます。
 不安から逃れ,楽しく日々を過ごす。
 そういう生き方をしてほしいといいます。
 確かに,このような方法で不安を感じなくなればいいと思います。
 しかし,暗示という方法については,もっとよく知らなければいけないような気がします。
 プラスにもマイナスにも働く方法だと思うからです。
 「包丁」は有用ですが,慎重に扱うべき道具です。
 道具を適切に扱うには,知識が必要。
 そう思いました。

意志を強く持つためには

 何かをするのに意志の力は大切ですね。
 私は,途中で投げ出したくなる性格なので,そのことを強く感じています。
 たまたま読んだ本が意志の強く持つことについての本でしたので,今回は意志の持ち方について述べたいと思います。
 本の題名は「スタンフォードの自分を変える教室」です。
 著者はケリー・マクゴニカルさん,心理学の先生です。
 題名からすると意志の強さなどを書いている本とは思えません。
 でも,読んでみてかなりためになりました。

 印象に残った一つ目は,意志の筋力というものでした。
 意志に筋肉があるわけではなく喩えなのですが,この喩えが秀逸でした。
 つまり,著者が訴えていることは,意志も疲れてしまって気持ちを維持できなくなることがある,ということです。
 これにはうなずきました。
 実際,1日で使える意志の力って限界があるように感じます。
 よく,綿密な計画を立てて実行できない受験生などの話を聞きます。
 計画立案に満足してしまって勉強した気になるというやつです。
 これを意志力から考えると,立案で意志の力を使い果たしてしまったんでしょうね。
 やった気になっただけではないように思います。
 重要ではないことであまり悩まないようにする。
 こういうことは意志を必要とする仕事をしている人には重要だと思います。

 印象に残ったことの二つ目は,バランスを取る脳という話です。
 ダイエットをしている人に,カロリーのあるものを食べること厳しく戒めると返って食べる量が増えるという研究結果があるそうです。
 厳しくした方が効果がありそうですが,そこが人間の心の難しいところです。
 何か一つよいことをすると,バランスを取ってよくないことをしがちになるのだそうです。
 実はバランスを取ること自体に価値はないのですけれど,人間の心というものはそれで安心することが多いのです。
 また,強い警告はストレスになります。
 ストレスがかかると人間はそれを解消する方向に働きます。
 ストレス解消の手っ取り早い方法は食べること。
 すなわち,ダイエットの失敗につながるのです。
 行為を振り返って価値判断をするのではなく,どこに向かっているのかを確かめることが大切になるのです。
 また,一度甘い物を食べると,どうせもう食べたのだからと,もっと食べてしまう心持ちになることもよくあるとか。
 どうにでもなれ効果と説明していました。
 自暴自棄ってやつですね。
 落ち込むと誘惑に負けやすくもなるそうです。
 人間はストレスに弱いので,どうしてもストレスから逃れようとします。
 それを分かっていないといけないようです。

 印象に残った三つ目は,弱い意志は感染するということです。
 人間は,どうしても周囲に人間に影響されます。
 周囲にだらしない人間がいると,知らず知らずのうちにまねてしまうのだそうです。
 一般に,他人の心を理解したり共感したりする脳機能にミラーニューロン効果というものがあります。
 このミラーニューロンによって,人間は社会的な行動ができるのですが,そのマイナスの効果もあるわけです。
 自分ができなくなる原因を他人に求めるのはただの言い訳です。
 しかし,人間にはこういう社会的な影響を受けやすいという性質があることを知っておくのは有益だと思います。
 周囲の影響を受けていると自覚することで自分の行動を制限できるようになりますからね。

 この本は,心理学の研究成果を裏付けとしながら,人間の意志がいかに一筋縄でいかないものかを説明しつくします。
 計画を立てればいい。
 警告を与えればいい。
 報酬を与えればいい。
 そんな単純なもので,意志を保ち続けることはできないのでした。
 自分の心がどのような性質を持つのかを理解すること。
 今,自分の心がどんな状態にあるのかを知ること。
 そういうことを踏まえて,意志を保ち続けることが大事ということが分かりました。
 この本,タイトルだけ見ると自己啓発本のようですが,実用的な心理学の本でした。
 とてもおもしろいです。
 心の在りように興味がある方に,お勧めいたします。

「臨床心理学のすべてがわかる本」を読んでちょっとだけ分かった

 先日,フロイトユングを対比的に説明した本を読んで感じたことがあります。
 それは,網羅的な解説書を読むことも有益だとということです。
 いままで,心の悩みやカウンセリングについての本を読んできましたが,鳥瞰的に解説した本を読んでいないことに気づきました。
 一度,臨床心理学全体を説明した本を読むべきである。
 そう思って,本を探しました。
 見つけたのが「臨床心理学のすべてがわかる本」(ナツメ社)です。
 そのまんまの題名ですね。
 しかし,初学者向けのこういう本が読みたかったのです。
 読んで印象に残ったことを述べます。

 一つ目は,心に表れる様々な症状が網羅的に説明されていたことです。
 強迫神経症とか統合失調症とかはさすがに知っていました。
 しかし自閉症などの発達障害五月病まで載っていて範囲の広さに驚きました。
 こういうところまで,カウンセリングに来訪する可能性があるから載っているのでしょう。
 しかし,ニートとフリーターまで載っているのはいかがなものか。
 病気や障害じゃない気がしますけど,その状態の人の内面が病んでいる可能性もあるので,概括書としては載せておいた方がよいのでしょうね。
 いやでも,この裾野を広げた感じが鳥瞰図を得ようとしている自分には向いています。

 二つ目は,様々な心理療法とその技法の説明が詳しく載っていたことです。
 いわゆる三大療法については,さすがに知っていたのですがその他似ついては聞いたことがあるくらいの知識でした。
 ちなみに三大療法とは,精神分析療法,行動療法,そして来談者中心療法です。
 行動療法に関していえば,10代以上は認知行動療法の方がさかんなような気がします。
 箱庭療法なんて,ジオラマ作るくらいしか知らなかったのですが,言葉での表現が十分ではない方を対象として行うのに有効であることなどは知りませんでした。
 内観療法と仏教の関係なども参考になりました。
 自分がどのくらい臨床心理学を知らなかったかを思い知るとともに,臨床故に系統的に整理されていないこの学問の全体像がつかめたような気がします。

 こういう本は,あまり論じられるものではないと思うのですが,やっぱり私のような初学者には,とても有用だと思います。
 解説書によくある,厳密な意味でいうと正しくない説明というものもあると思います。
 しかし,そういうことは今後多くの本を読むことによって,しだいに分かってくることでしょう。
 今は,たくさんの知識を与えてくれたこの本に感謝をしています。

 

 

フロイトとユングについて勉強した

 「心理学対決!フロイトVSユング」という本を読みました。
 いかにもなタイトルの本です。
 それでも監修者は,山中康裕さん京都大学教育学部の教授を務めた方です。
 内容は信用してもいいでしょう。
 私は大学で心理学を学びましたが,実験的な手法の心理学でした。
 臨床系に縁がなかったのです。
 また,大学の先生の中には,講読でフロイトが出てくると
 「この学者はフロイトを信じているのかな?」
 とつぶやく感じでした。
 その口調から,フロイトは非科学的という感じを受けました。
 こういう経験が基礎になっているので,フロイトユングアドラーなどはまともに勉強したことがなかったのです。
 最近,臨床心理学に興味を持って,いろいろな本を読んでいますが,この辺りで基本的なことを知っていてもいいだろうという気持ちになってきました。
 そこで,この本を読むことにしたのです。
 それに実用書で定評のあるナツメ社の本ですから,どのページもカラーです。
 読みやすかったですね。

 フロイトユングは,学説を巡っては袂を分かったとのことでした。
 その大きな違いはリビドーの扱いだそうです。
 リビドーは,心のエネルギーです。
 フロイトはこれを性的なものと考えたのですが,ユングはその他の欲も含めたとのことです。
 あまり大きな違いと考えられなかったのですが,最先端の学者には大きな違いだったのでしょう。
 どうしてこのような違いがでたのかということを,この本では詳しく説明していました。
 二人の生い立ちとか治療した患者の特徴とか,そういうことから違いが出たようです。
 フロイトは性的な記憶や欲求を持つ患者を多く診たのでそう考えたのかもしれません。
 ユングは性的ではない原因の患者を診たのかもしれません。
 でも,心の病の原因として,なんとか共通化・一般化できなかったのでしょうか。
 そんな印象を持ちました。
 個人的には,フロイトが性欲に限定するのはどうなのかなあ,人間それだけなのかなあ,という印象を強く持ちました。

 さて,とはいっても,ユングの方を信頼しているかというと,そうでもない部分がありました。
 ユングの原型論です。
 ユングは治療を進めていくと,共通の経験を持つはずもない患者が同じような話をすることに興味を持ちます。
 そしてここから,人類共通の無意識があるのではないかと考えます。
 それが,集合的無意識という考えです。
 そして,神話なども研究していくのです。
 これは,どうも納得いかない感じがしました。
 ほんとうに,心の奥底にそんな共通土壌があるのでしょうか?
 そもそも,患者はヨーロッパ文化にどっぷり浸かった人たちですし,しかも上流階級の人たちだったはずです。
 ですから,文化的背景もある程度均質だったのではないかと思うのです。
 思い切り文化が違う中国とかインドとかの患者を診ても共通性があったらそうかもしれないですけど。
 というように,それぞれの学説にすっかり納得したという感じにはなりませんでした。

 とはいえ,二人それぞれ臨床的事実,治療した事実から理論を考えていたので,ある種の真実はつかんでいたんじゃないかとも思うのです。
 そして,カウンセリングの現場では,理屈がすべてでないことは分かります。
 そうでなければ今でも参照されるはずもないでしょうから。
 一つの基礎的教養として,この本を読んだのはよかったと思います。
 とてもコンパクトに説明していて,初学者に優しいですしね。

 

 

「老い」に負けない生き方とは?

 「『老い』に負けない生き方」という本を読みました。
 著者はエラン・ランガーさん,ハーバード大学の心理学教授です。
 初老となった私には他人事ではありません。
 心理学的な知見に基づく「老い」への対抗策があれば,こんなに心強いことはありません。
 読後,心に残ったことを述べます。

 一つ目は,「マインドフルネス」です。
 著者はマインドフルを30数年に渡って研究しているとのことです。
 筆者のいうマインドフルとは,日常のささいなことに敏感になることだそうです。
 細かな変化に気付くようになることで,自分が常に変化していることに気付くようになる。
 おそらく,そうすることで自分で考えることが当たり前になり,自分の行動を自分で決定できるようになることが大切なのだと思います。

 二つ目は,「意思決定」です。
 老人介護は,健康安全が第一です。
 けがや病気は厳禁です。
 そのために予防安全に相当の力注がれます。
 先回りして安全策を講じるとどうなるか。
 老人は自分で考えなくなります。
 安全を分かっている誰かの指示を守ればよい。
 そういう風になってきます。
 それでも安全と健康を守れればOK。
 とはならないのが,人間の難しいところです。
 意思決定をしなくなると老いが進むらしいのです。
 自分で考えなくなった,生き物は生きる力を失う。
 そういうことが起きるのです。
 困ったことです。
 エランさんたちは「カウンタークロックワイズ研究」という大がかりな実験を行いました。
 これは,いろいろな要素が入り込んでいるので,詳しくは原著を読んでほしいのですが,意思決定の点から述べると,意思決定があるグループとないグループに分けて比較をしました。
 そうすると,意思決定のあるグループが若々しさを保ったようなのです。
 何歳になっても,自分のことは自分でする。
 そういうことが大切だということを明らかにしたのでした。

 三つ目は「言葉の力」です。
 心理学的に,ある行動や感情のきっかけとなるものを「プライム」といいます。
 そして言葉がこの「プライム」として大きな役割を果たすのです。
 ガン患者にとって,寛解と治癒はまったく別の心理的反応をもたらすとのことです。
 もちろん,治癒の方がよい反応をもたらし,健康に過ごすことに近づくのだそうです。
 つまり,可能性のある言葉を使うことで,活力を引き出すことができるということです。
 筆者は,プラシーボ効果も例としてあげていました。
 プラシーボで効果があるのであれば,それを使えばよいという考えです。
 プラシーボって効かない薬をだまして使わせるというようなイメージがあったのですが,積極的にいい方へ使うこともできたのですね。
 目からウロコでした。

 この本は,「老い」であきらめていては,よい生活を送れないということだと思います。
 しかし,これは「老い」に限ることではないと思いました。
 ある種運命的で決定的な状況に陥った時,人は何もかもあきらめてしまいがちになります。
 しかし,そのような状況でも,あきらめることばかりではないのです。
 その中でも,改善や向上はあるのです。
 まずは,マインドフルに生活してみることだと思いました。