ギスカブログ

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【ネタバレ書評】米澤穂信「栞と嘘の季節」

1 図書委員シリーズの2冊目

米澤穂信さんの日常系推理小説です。

米澤さんの日常系推理小説といえば「古典部シリーズ」です。

本作も高校生を主人公とした推理ものです。

主人公は図書委員の高校2年生2人。

堀川次郎と松倉詩門。

この2人で日常の謎を解き明かしていくというのが主な筋になります。

どちらかというと堀川さんがホームズ的ポジションですね。

しかし、今回は日常というよりも少し重い話でした。

2 トリカブト

毒草トリカブト

時代ものなどでは、よくでてくる小道具です。

草全体に毒があり、矢じりなどに使われていたといわれます。

毒はアコニチン系アルカロイド

しびれから始まり、おう吐、腹痛、下痢などを引き起こし、呼吸不全に至って死すこともあるとか。

アコニチンの致死量は2~5mg。

というわけで、けっこう危険な毒草です。

これを押し花にした栞を図書室で見つけたことから騒動が始まります。

生徒指導で厳しい教師が腹痛で救急搬送されました。

どうやら秘密にされていますが、トリカブトが使われたようです。

いったい誰が毒をもったのか。

2人の推理が始まります。

3 切り札

さて、栞を落とし物として持ち主を探していた2人。

ついに持ち主が現れます。

瀬野さんという美人。

しかし、この瀬野さん、すべてを正直に話すのではなく、要点を煙でまきます。

そのくらいだったらまだいいのですが、ウソもつきます。

まあ、これが表題だったりもするわけですが。

なので、それぞれが自分の思惑を持って互いを利用しながら真相に迫ろうとしていきます。

こういう迫り方なので、紆余曲折が多い。

そういう紆余曲折が小説のおもしろさにつながっているのでいいのですけれど、まだるっこしいことこの上ない。

青春特有の屈折のある登場人物が多いので、それも仕方ないかな、というかそれもこの小説の魅力の一つなのかなと思います。

さて、人を殺せるものが「切り札」。

なにやら物騒な話ですが、当然それを持つにふさわしい動機があり、話は登場人物の内面を膨らませていきます。

なかなか、読み応えのある展開でした。

3 謎解き

本書は、容疑者をすべてあげて、謎を解く要素もすべてさらして、さあ読者のみなさんどうですか、というタイプの小説ではありません。

ありませんが、最後の章の前で立ち止まって考えると、なんとなくですが事件の背景がわかるくらいになっています。

その意味では、謎解きとしても楽しめるようになっているのですね。

ただしなんですが、毒草、人殺し、といったガジェットの小説なので、解き終えた後の爽快感みたいなものはありません。

いや、読み応えはあるのですよ。

現実の青春のように屈折した心情を登場人物に投影していることもあるのでしょう。

また「古典部シリーズ」のような恋愛小説の要素もありません。

謎解きがメインではあるのですが、一般の小説、人物の描写などもメインに近いくらいの役割を担っています。

単純な探偵もの、というわけではありませんでした。

4 総評

シリーズものであることを知らなかったので、2巻目から読み始めてしまいました。

1巻目は、短篇集だそうです。

そちらから読むべきだったかもしれません。

作品の世界観に慣れやすかったと思います。

本作の主人公2人ですが、特に松倉さんの方がくせがあるというか、なかなかなじめない感じの人物でして、そこに少し抵抗を感じていました。

また、2人の仲も親友というほどではなく、ほどほどの友情感、信頼感なのも没入できない要素になったと思います。

そういう意味で、「古典部シリーズ」のような爽快感はないのですが、日常系推理ものが好きな人にはたまらないと思います。

おもしろかったです。

しかし、わたしには次巻が楽しみというほどではありませんでした。